ある日の授業中、例によって睡魔との闘いに完全敗北していた俺の襟首を
後ろからものすごい力で引っ張られ、俺の後頭部が机に強烈にぶつけられた。
「何しやがるんだ!」
そんな俺が天国へと強制連行されてしまいそうな力で引っ張るなよハルヒ!
俺に用があるなら休み時間か放課後にでも聞き流しておいてやるし、
どうせならもうちょっとやさしく起こしてくれよ。
「気がついた!どうしてこんな簡単なことに気付かなかったのかしら!」
いつぞやと同じ台詞を言いながら、ハルヒは俺をいつものように輝く瞳で見ている。
「何に気付いたんだよ?」
「誰かに奪われるくらいなら自分で奪っちゃえばいいのよ!」
あの時とは微妙に台詞は違うが、どうせろくなことを考えていないのは間違いない。
「何を」
「キョンのファーストキスよ!」
その一言でクラス中が凍りついた。教師さえもチョークを手にしたまま固まっている。
おいおいおいおい、俺のファーストキスを奪うってお前は授業中に突然何を言いだすんだ?
そりゃまあ確かにキスはしたことはないが俺にだってキスする相手と時間と場所を選ぶ権利くらいはあるぞ。
「さあキョン、協力しなさい」
いつのまにか俺の横にいるハルヒは俺を無理矢理立ち上がらせ、俺のネクタイを掴んできた。
そもそもなぜ俺がお前なんぞとキスしなきゃならんのか、それをまず教えてくれ。
「問答無用よ。あんたはおとなしく目でも瞑ってればいいの」
…やっぱり聞いちゃいねえ。
ハルヒの顔が迫ってくる。つーかお前、本気で公衆の面前でキスする気かよ!
ど、どうせなら2人きりの時とかに…ってそうじゃなくて!
「心配ないわよキョン。あたしだって初めてだし」
何をもって安心すればいいのか分からん!お前はもっとこう、ムードとかそういうのをだな…
なんとか逃れようとする俺に対しネクタイをグイグイ引っ張って顔をさらに近づけるハルヒ。
…誰でもいいからこいつを止めてくれ。
『ごゆっくりぃー!』などと叫んで谷口が教室を飛び出すのとほぼ同時に(止めてくれよ谷口)、
俺とハルヒの唇が重なった。
初めてのキスは5秒ほどのキスだった。何ていうか…何かとんでもないものを喪失した気分だ。
「これでよし、と。さあそれじゃ、授業の続きを!」
心底嬉しそうな顔でハルヒが教師にそう促した。
その後?授業になんかなるわけないだろ。しばらくクラス中からものすごい目で見られたね。
当のハルヒはというと、そんな視線などまったく気にしていないようだったが。 |