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それから
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「……あのっ!その……す、好きです!付き合ってください!お願いします!」
高揚と羞恥の入り混じった裏返った声。内容からしたらそうなるのも無理はない。なにせ愛の告白なのだから。
「……ごめんなさい」
心底悪いと思っているような声。それでもはっきりとそう答えていた。
「…………ありがとう……ございました」
絞り出す声は儀礼のような潔さと強制力をもっていた。
「……終わったか?」
「うん……」
身を隠していた壁から顔を出し問いかけるでもなく呟く。
「今年に入って何回目だったかな」
俺達が3年になったということは新しく一年が入ってくると言うわけでそんな一年が玉砕する様を見てきたわけだ。
凄い撃墜率だな、なんて茶化してやろうと思ったがハルヒの思いつめた横顔に軽薄な言葉を溜飲とともに嚥下する。
ほっとしている自分が嫌だった。
朝比奈さんが卒業し、SOS団は4人になった。ハルヒは新しい部員を入れようとはしなかった。
言葉にはしなかったが俺も賛成だった。
入学してからの2年間とちょっとでハルヒは随分丸くなった。それが加速したのは朝比奈さんの卒業のように思える。
人と会話するようになったしあの近づきがたいオーラもなくなった。
だからこそ、今の時点で俺の知っている限りで総勢52名(女性含む)もの告白を受けたわけだ。
中学のハルヒならともかく今のハルヒが簡単に告白を受けるわけないと思っていたし知っていた。
それでも誰かのものになってしまうハルヒを想像するだけで苦瓜を丸呑みした気分になった。
だったらお前が告白すればいいだろ、一年からの友人より上、親友以下は簡単に言う。
でも俺達は近すぎる。いまさらそんなことを言えないくらいに近すぎる。
この関係が壊れるのが怖い。チープでループなこの思いは幾千と重ねられた人類の愚考だ。
わかっていても、すぐ傍で、手が触れそうなこの距離が、手放せそうにない。
涼宮さんは待っているんだと思いますよ、超能力者以上親友以下はにこやかに語る。
何をだ、とはぐらかす。それきりそいつは黙る。わかっていることを何度も言う必要はない。
ある日部室に入るとハルヒが一人で窓の外を見ていた。
俺が入ってきたことにも気付いていない。集中ではなく散漫で気付いていないようだ。
何か口ずさんでいる。歌のよう、伴奏なしの独唱、上等なものではなくただの鼻歌。
アップテンポなリズムなのにどこか悲しい失恋の歌だった。Lost My ……。
「ハルヒ」
「わっ!な、なによ。もう驚かさないでよ」
「お前、これから先も世界を大いに盛り上げるつもりか?」
「え?あ、うん、当たり前でしょ。何の為にこの団を作ったと思ってるのよ」
「一つ聞いていいか、なんで『世界を大いに盛り上げる』なんて言葉思いついたんだ?」
「えっと、それは……」
ハルヒは歌と同じ顔をした。
「別に、なんでもないわ。宇宙的インスピレーションがこうビビッと来たのよ。っていうか、なによ急に」
ハルヒにそんな顔させるなんて世界で、いや宇宙でたった一人しか出来ないに違いない。
そいつは将来ハルヒがどう思うかなんて深く考えずに言ったに違いない。
鶏が先か卵が先か、そんなもの突然変異の卵が先に違いない。
自分に嫉妬するなんてどうかしてる。でもそれは正しい気持ちだと思う。
あのときの俺と今の俺は違うんだから。
だから、ジョンスミスからハルヒを取り返さなきゃいけない。
「ハルヒ、世界を大いに盛り上げるのはかまわんが一人じゃ無理があるんじゃないのか」
「だからSOS団作ったんでしょ」
「なるほど、しかし朝比奈さんは卒業しちまった。来年には皆バラバラだ。それでも続けられるのか?」
「っ!それは……。出来るに決まってるでしょ、あたしを誰だと思ってるのよ!」
「無茶言うなよ、昔ならともかく今のお前じゃ一人はきついだろ」
言葉に詰まるハルヒ。だから。
「だから俺に手伝わせてくれ。この先もずっと」
「え……そ、それって」
「お前のことが好きだから」
その後は大変だった。泣いたり笑ったりするハルヒを必死でなだめていた。だがまあ返事は言うまでもないだろう。
世界を大いに盛り上げる涼宮ハルヒとキョンの団を、今までもそしてこれからも、よろしく。 |
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