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キョンは死なない
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「急進派の暴走開始を確認・・・注意したほうがいい」
俺はあの時の事を思い出した。
まさか朝倉が復活したんじゃないだろうな?
もうあんなヒヤッとする想いはこりごりだ。
あれをもう一度やる位なら、いっその事戦時中のドイツ軍兵として単身アメリカに乗り込んだほうが数百倍はマシだ。
「その可能性もある」
やれやれ。もう勘弁して欲しいね。
と言いつつ俺は親に頼まれて買い物に出ているわけだが、駅前のこんな所に現れたりなんかしないだろうな。
「お久しぶり」
考えた傍から現れやがった。
ナイフを持った宇宙人製アンドロイド。
「急進派は最近のあなたの行動を非常に否定的な目で見てる。
だって何も起こそうとしないもの」
ご生憎様だぜ。人間は何もないほうが幸せに暮らせるんだ。
あんまり何も無さ過ぎて退屈なのも困りものだが。
「じゃあスリリングな体験をさせてあげる。
あっ、今回はバックアップじゃないから長門さんに操られることもないし、彼女の機能はロックしてあるから安心して」
どこが安心して、だ。いい加減にしろ。
古泉でもいいから早く来てくれ。
「じゃあ、死んで」
いきなりかよ!と思った瞬間俺の胸にナイフが刺さっていた。
そして体がフラついて車道に出たかと思うと、見事なまでにトラックにぶつかったのだ。
まさかこんな所で最期を迎えるとはな。
長門や古泉ばかりに頼ってたせいかもしれない。
俺は何も出来ない一般人だしな。
朝比奈さんにも申し訳なく思うね。
ハルヒ・・・あいつは俺以外の誰が止めるっていうんだ。
最後にあいつの笑顔位拝んどきたかったぜ。
こんな時にあの笑顔が幸せなものに感じられるなんて、人間はいかに出来の悪い生物か思い知らされるね。
トラックに跳ね飛ばされた俺はそのまま踏切まで飛ばされた。
幾らなんでもそこまでする事はないだろうに。
急進派も随分手の込んだ事をしてくれるじゃねえか。
タイミングよく来た電車に轢かれる寸前、古泉や森さんや新川さんや多丸兄弟が居たのは気のせいだろうかね。
これが走馬灯って奴なんだろうが、せめて最後くらいはハルヒと朝比奈さんと長門の顔も拝んでおきたかったぜ。
等と考えられてるのも不思議なのだが、電車が体に触れた瞬間俺の意識は消えかかる。
朝比奈さん、他のみんなは生きてるので俺みたいな凡人の事で落ち込まないでくださいね。
古泉、お前も最後までご苦労だったな。将来はきっと国家の要員にでもなれるだろう。
長門、今回もお前の責任じゃない。責めるならお前の親玉を責めてくれ。
ハルヒ・・・お前の顔は一生忘れやしないさ。その一生も今終わっちまうけどな。
お前のお陰で本当に楽しかった。最後までお前の顔が見れなかったのは残念だけどな。
もし生まれ変われたらお前の隣の家の子にでもなって、またお前の顔を拝みたいね。
キョンが交通事故に遭ったらしい。
今は古泉君の親戚がやってる病院に来てる。
幾らなんでも死ぬわけない。
この前階段から時だって大丈夫だったんだし。
そうよね、大丈夫。
でも、もしもの時の事が頭を過ぎる。
嫌。そんなの絶対嫌。
あいつはあたしにとって大切な雑用じゃない。
でも、雑用くらいでなんでこんなに心配しちゃうのかしらね。
あたしが雑用なんて言わずに団員として意識してたから?
悔しいけど、あたしはあいつなしじゃあそこまで楽しいことは出来なかった。
いつの間にか、あたしはあいつの事を必要以上に大切に思ってたみたい。
こんな時に気付くなんてあたしも愚かよね。
死なないでよね、キョン・・・・・・
あたしにこんな事思わせといて死ぬなんてあんまりじゃない・・・
バカキョン・・・
「涼宮さんが来られました。今すぐ霊安室から運んで!」
「ガムテープでも何でも良いから早く持ってきてください!頭と左足と右手をくっ付けて!」
「中指を左右で付け間違ってる!こっちが右手です」
病室から色々と声が出てきた。
古泉君や多丸さん達もいるみたい。内容までは聞いてる余裕はなかったけど。
暫くすると古泉君が出てきた。
「もう面会OKだそうです。さあ中へお入りください。
重症ですが一命は取り留めたようです」
中には包帯でぐるぐる巻きにされてるキョンがいた。
包帯の間から傷跡やそれを覆うテープみたいなのが見えた。
生きててよね、キョン・・・
あたしはキョンの手をギュッと握り締めた。
一人だけ死ぬなんて許さないんだから・・・
悔しいけど、目から涙が溢れて来る。
そしてその粒がキョンの体の上に落ちた。
「ハルヒ・・・」
一瞬何が起きたのか分からなかった。でも凄く嬉しかったのは確か。
気が付いたらキョンの腕の中で泣いてた。
悔しいしだらしないと思うけど、そんなのも忘れちゃうくらい嬉しかった。
もう絶対離さない。
死ぬときだって団長に無断で死ぬのは許さないんだからね、バカキョン・・・
一時はどうなる事かと思ったぜ。
まさかあんな風になっちまうとはな。
古泉や機関の人たちには悪いが、俺だって最後に野郎や怪しげな組織の人間の顔を見て死ぬ趣味はないぜ。
って言うのも多分言い訳だろう。
俺はまたハルヒの顔を見れて嬉しかったのだ。
こいつの事は俺以外の人間じゃ止められないだろうしな。
疲れるのはご免だがまた色々と楽しいことをやって貰いたいね。
この日は一日ハルヒと病室で過ごしたのだが、そっちの方に気を取られて気付く余地もなかった。
何故俺が今生きてるのかって事にな。
まあそんな事が出来る人物は一人しか知っていないのだが。
「怪我が治ったらすぐに不思議を探しに行きましょう!」
おいおい、怪我は治っても暫くは絶対安静なんだぜ?
体の調子がおかしくなっても困るしな。
でもこいつの笑顔を見ていると、どうにでもなる気がするのは気のせいではないだろう。 |
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