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普通の日
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なぜこんな寒いなか外を歩かなきゃならんのだ。そんな愚痴も隣を朝比奈さんと長門が歩いていることで中和される。
ハルヒの世話を古泉に押し付けられるならこの不思議探索なんて意味不明な散歩も悪くない。
そんなこんなで午前の探索も終わり一旦ファミレスに集合となった。
「全然面白くなかったわ」
いつになく不機嫌なハルヒ。何も見つからないなんてのはいつものことだがそれだけではないようだった。
「少しよろしいでしょうか」
古泉がずいっと身を寄せてくる。なんでそんなに近づくんだ。気色悪い。
「あまり涼宮さんの耳には入れたくないもので」
となるとまたあっち関係の話か。やれやれ、今度はなんなんだ。
「実はですね……」
古泉の話によるとふと目を離したときにハルヒがナンパされていたらしい。それだけならいいがハルヒの奴ケンカを売ったというのだ。まあ想像はできる。また暴言を吐いたんだろう。
古泉が割って入って何とか穏便に事を運んだ、とおもったらまたハルヒがふらふら一人で歩いてナンパされ、古泉が仲裁、またナンパということがあったらしい。
ハルヒは邪魔されたことにいたくご立腹らしく『あたしが総理になったらナンパ禁止令だそうかしら』なんていっていたらしい。
ただでさえ下がっている出生率がまたさらに下がりそうだ。
「ですので午後はあなたが涼宮さんと一緒に行ってもらえませんか?」
「なんでそうなる」
「一つは涼宮さんの機嫌を良くして頂きたいこと、もう一つはあなたと一緒ならナンパなどされないだろうということです」
なぜ俺が。ナンパ野郎に文句を言えってんだ。
「とにかくお願いします。このままではバイトが始まってしまいそうなので」
男のみ入れ替えの提案に多少いぶかしんだハルヒだったがおとなしく俺とのペアになった。
おいおいハルヒ。どうしてこんなときだけ素直なんだ。いつもみたいに嫌がっていいんだぞ。
普段は気にしていなかったがハルヒは人目を引く。
美人なのは間違いないしスタイルもいい。今日の服は露出も多い。
俺のように本性知っているならともかく普通の男なら振り向くのも頷ける。
声をかけられるのもむべなるかな。外面に騙される谷口のような輩は後を立たないというわけだな。
だがそうなると俺は何をすればよいのだろうか。
ハルヒの機嫌取りをしながらナンパ防ぎ?そんな器用な真似俺に出来るわけない。
さてどうしたもんかと思いながらハルヒの後を歩く。すると急にハルヒが振り返った。
「なにモタモタしてるのよ!ほら来なさい!」
「っと、おいおい……」
俺の手を引いて走り出すハルヒ。走ったって何かが見つかるわけでもないだろうに。
「見つからないわけでもないでしょ。のんびりしてて誰かに先越されたら嫌じゃない」
「そうは言うがな、確率で言えば99対1、いやもっと差があるかもしれないぞ」
「いいじゃない。そういうほうが燃えるわ。SOS団は1%にかけるのよ!」
初めて聞いたぞ、その標語。まあこうなったハルヒを止められる奴なんていやしない。
「ほら!あんたも走りなさい!」
はいはいわかったよ、もう好きにしてくれ。
「じゃあ解散!」
ハルヒの号令の元、各団員はそれぞれ家路に着く。と、古泉が追いかけてきた。
「呼び止めて申し訳ありません。一言お礼を言っておこうかと思いまして」
「礼?なんのことだ?」
「午後の探索前にあなたにお願いした件ですよ。見事に果たしてくださったようで何よりです」
今日も安眠できそうです、と続けた古泉だが俺にはわけがわからない。
「簡単な話です。あなたといるときの涼宮さんはそれだけで楽しんでいて独り身には見えないということですよ」
俺といるときのハルヒはSOS団のほかの面子といるときよりも怒っている気がするんだがな。
「それだけ涼宮さんはあなたに様々な表情を見せるということです。正直羨ましいですよ。それではまた学校で」
羨ましいのなら代わってやりたいさ。けど結局ハルヒが決めてることだからな。俺には手の出しようがない。
手、そうかそういえば。普通手なんかつないでる男女がいたらナンパなんてしようと思わないよな。
そんなことにようやく気付く。古泉の意図はそういうことか。
「ナンパ、ねぇ」
ハルヒと付き合いたいなんて奴の気持ちはさっぱりわからない。考えるだけ無駄だ、どうせあいつは断るだろう。
中学までならともかく今はSOS団のほうが大切だと思っているだろうからな。
……あいつが他の誰かと付き合うはずがない。確信なのか、希望なのか、哀願なのか。……馬鹿馬鹿しい。
手のひらに残るあいつの手の感触。それがなんだかとても大切なものに思えた。……クリスマスが近いある日のことだった。 |
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