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フラクラ
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「なんだそりゃ」
ハルヒから「フラクラって何かわかる?」との質問に俺はそう答える。
質問に質問で返すなんて無作法ではあるが知らないものは仕方ない。
「じゃあ教えてあげるわ。フラグクラッシャーのことなんだって」
先生モードON。
「なんでも自分から異性と仲良くなるチャンスをどんどんつぶしていくんだとか」
正直なところバカだと思う。俺だって健康な男子高校生だ。出来れば異性と仲良くしたいさ。
「しかも相手からのアプローチをことごとくスルーするんだって」
正真正銘のバカだな。自分からいくのだって難しいのにわざわざ相手から来てくれてるのを無視するなんて。
「一回見てみたいわね」
こいつはそういうヘンなのが好きだからな。…待てよ。もしや。
「おいハルヒ。お前がそのフラクラなんじゃないか?」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をするハルヒ。どちらかと言えば豆鉄砲を食らってる鳩を見てみたいがな。
「あたしのどこがフラクラなのよ」
バカにしてるわけでもないのになぜか怒り出すハルヒ。
「自分の胸に手を当てて思い出してみろ」
ぺた、と素直に自分の胸に手を置くハルヒ。なんでこんなとこだけ素直なんだ。
「記憶にないわ」
完全に言い切った。どこまで自分の記憶に自信があるんだよ。
「じゃあ教えてやる。お前中学のとき随分モテたそうじゃないか」
ハルヒの機嫌が200%悪くなった。なんだ一体。
「あんたには関係ないでしょ!」
触れられたくない過去なのだろうか。
「まあ確かに、今の俺たちには関係ないな」
「え…」とハルヒが言葉を失ったように俺を見つめる。
「…そうね。今のあたしたちには関係ないわよね」
急に機嫌が良くなった。躁鬱の激しい奴。
「けどまあ当時はとっかえひっかえできたわけだろ?それをお前はことごとく振ったらしいじゃないか」
「それはどいつもこいつもくだらなくて不思議のかけらもないような奴ばっかりだったからよ」
まあ当時ハルヒに近づいてきたような奴は十中八九顔につられてきた奴だろうからな。
ハルヒの期待する人材とは大きくかけ離れていたことだろう。
ハルヒのことだからさぞ豪快にかつ完膚なきまでに相手を叩き潰したことだろう。
…待てよ?俺も初めてハルヒに話しかけたときそんな感じじゃなかったか?
「…あの時はしょうがないじゃない。あんたもそこらへんのと一緒だと思ったし」
微妙に視線をはずしながら言うハルヒ。別に俺だってそこらへんのと変わらないけどな。
「そうじゃなくて、なんか、あんたは違うって言うか、その」
「まあお前みたいのに飽きずに話しかける変な奴ではあったな」
「…もう!そーよ、あんたは変なの!バカキョン!」
なんで自分より変な奴にそこまで言われなきゃならないんだ。
「まあそんなお前がこのSOS団ではそこそこまともにやれてるからな」
「あたしが作ったんだから当たり前でしょ。SOS団以外がおかしいのよ」
あいかわらず自信過剰なこって。きっと俺には一生無理な心境なんだろうな。
「まあ一応あんたも最初からいたし、このSOS団はあんたと一緒に作ったって言ってあげてもいいけど」
あごに手をやりながら片目だけ開いて俺を見るハルヒ。
「別にいい。こんなおかしな部を立ち上げたなんて自慢にもならない」
明らかにムッとするハルヒ。言い方がまずかったか。けど実際ハルヒがいなければこのSOS団はなかったんだ。
「俺なんかがいなくてもお前なら大丈夫だろうってことだ。例えば今俺が抜けたところで大して変わりはないだろうしな」
もちろん抜けるつもりはない。ここが今の俺の居場所だからな。
「…変わるわよ。あんただって誇り高きSOS団の一員でしょ。例え3ミクロンでも変化は変化よ」
俺の存在は3ミクロンか。言いたい放題言ってくれるな。
「ま、そうだろうさ。俺は普通極まりないからな」
こんなおかしな集団だ。一人くらい普通なのがいてバランスを取るべきだろうしな。
「…別にいいわよ。たまには、ほんとーーーにたまにはだけど普通なことがあったって」
「何言ってるんだ。お前普通が嫌いなんじゃなかったのか?」
「好きじゃないわよ。けどたまには、そう夜中に見える流星の数くらいは普通なことがあってもいいわ。だからあんたもそれくらいの価値はあるの。それがあんたがSOS団にいる理由よ」
確立が高いんだか低いんだかわかりにくい例えだった。ハルヒがどんな意図で流れ星なんて例えを使ったのかわからない。
「けどお前人をそんなのに例えるなよ。どっかに飛んでいきそうじゃないか」
ハルヒはなぜか怒った。そんなに今の例えに自信があったのだろうか。
人の話も聞かずに怒ってばかり、フラクラとは恐ろしいもんだよ、まったく。 |
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