ふとキョンってあんまり動じたりしないなって思った。
よし、キョンを慌てさせてやろう。決まり!
とりあえずバニーを着てみた。キョンだって男なんだから少しくらい動揺するはず。
「なんだその格好。またなんか企んでるのか?」
部室で二人きりだっていうのになんでそんなリアクションなのよ。
男としてダメなんじゃないかしら。
次は漫画で見たこの作戦。その名も『あててんのよ』
「ねえキョン」
わざと胸を押し付けるようにキョンの背中に寄りかかる。…思ったより恥ずかしいわね、これ。
「なんすんだよハルヒ。重いからどいてくれ」
…おかしいわね。本当なら『な、あ、当たってるって』とか言うはずなんだけど。
これもダメ。
そうだ!コンピ研と勝負したときのあれはどうかしら。
こう顔を近づけてじーっと見つめるやつ。
たしかあの気合注入はキョンもちょっと動じてた気がする。
「キョン、こっち見なさい」
じーっ
じーっ
じーっ
おかしい。全然効かない。むしろこっちのほうが恥ずかしくなってきた。
「なんで何も変化ないのよ」
「前にやられたからな。もう慣れた」
二番煎じはダメみたい。
「涼宮さん、簡単な方法がありますよ」
そういって古泉君が渡してくれたのは…。
「な!どうしたハルヒ!」
部室に来てあたしを見たキョンは慌ててかけよってきた。
「と、とりあえず涙拭け。ほら」
優しい言葉と一緒にハンカチを出してくれた。
作戦は成功。古泉くんがくれたのは目薬。それで泣きまねをしてみたというわけ。あとはいつネタばらしするかなんだけど。
「何があったんだ。教えてくれハルヒ」
キョンはすごく真剣な目をしてる。本気で心配してくれてる。
いまさらになってあたしはとんでもないことをしてしまったんじゃないかって思った。
「ハルヒ、言いにくいことなのか?絶対誰にもいわないから話してくれ。俺がなんとかするから」
根拠なんてないのに信じられる不思議な言葉。それはきっとキョンの言葉だから。あたしの世界を変えたキョンの言葉だから。
でもそれはあたしの嘘。キョンは真剣なのにあたしはふざけていた。
感じたことのないくらいのすごい罪悪感。
さっきからぬぐってるはずなのになぜか涙が止まらない。
もう、目薬なんてないのに。残ってないのに。
「ご、ごめんな、さい。キョン」
「そうか、わかった」
全部話したらキョンはあたしの頭に手を置いた。
「心配かけるなバカ」
ぐりぐりと頭を押さえつけられる。
いつもなら払いのけてる。けど、今はすごく気持ちよかった。
「人を慌てさせたって得なんてないし、その人が傷つくかもしれないんだからやめとけ」
「うん…」
「それにな」
キョンは顔をあたしに見えないように背けて言った。
「俺のは顔に出てないだけだ」 |