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ぎゅ
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ハルヒが抱きついてきた。
「……なにするんだ」
寒かったんでストーブに当たっていたところを襲撃された。背中から抱きつかれてる形となる。
「有希いないのね。珍しい」
こちらの質問に答えず一方的に質問してくるハルヒ。
「さっきコンピ研に呼ばれてたぞ。たいして時間はかからないそうだ」
「ふーん」
体勢は相変わらずでしかし温度は上がった気がする。体温なのか気温なのかはわからんが。
「で、なんでお前はそんなことしてるんだ」
「別にいいじゃない寒いんだから」
欧米か!なんて突っ込みも、もう古いのだろうか。常々ハルヒには恥じらいの心が足りないと思っていたがこんなことを簡単にするようではいつか男に勘違いされるに決まっている。矯正してやるべきだろう。
「こういうことは朝比奈さんだけにしておけよ」
「それもそうね。みくるちゃんは柔らかくてあったかいから」
すいません朝比奈さん。ハルヒの人格矯正に協力をお願いします。南無、と手を合わせる。
こんな事後承諾にもなっていないお願いをするのは心苦しいが朝比奈さんには頑張ってもらおう。
代わりに今度お茶やなんやらの買い物にでも誘おう。それなら俺の心も潤って一石二鳥だ。
「……今みくるちゃんのこと考えてたでしょ」
いつのまにか身を乗り出していたハルヒと目が合った。
「……何を根拠に」
「顔がデレデレしてた。エロキョン」
いやいやハルヒさん。あのお方と二人で歩く様を想像して頬の緩まない男子など存在しませんよ?と言ってやりたいがおそらく余計に不機嫌にさせるだけなので黙っておく。
「……どうせならみくるちゃんにこうされたいとか思ってたんでしょ」
ハルヒがまた俺の後ろを取る。こう、とは抱きつかれていることを指しているのだろうか。
む、もし朝比奈さんだったら……ものすごいことになるな。あててんのよ的な意味で。
「悪かったわね。みくるちゃんより胸小さくて」
いやそんなことはないぞ。現に今当たっている感触だって……って違う!
「そういう問題じゃない。こういうことは勘違いされるからやめろってことだ」
「何よ、勘違いって」
「いいか、男ってのはお前の想像以上に馬鹿な生物なんだ。こんなことされたらどう考えると思う?」
きっと谷口なんて狂喜乱舞の末、即告白するだろうな。もっとも相手がハルヒだと知ったら逃げ出すだろうがな。
「馬鹿ね、男って」
「返す言葉もない。というわけで離れてくれ。気のない相手にするもんじゃない」
「……じゃあ問題ないじゃない」
ぎゅっと、より強く抱きしめられる。……待て、なんて言った?どういう意味だ?
「うっさいバカ。少し黙ってなさい。こっち見たら殺すわよ」
……どうしたもんか。ここで逆らったら世界はどうなるかわかったもんじゃない。でも言いたいことはある。
「お前な、照れ隠しにしたってもう少し穏やかな言い回しがあるだろ。それじゃ脅迫じゃないか」
「だっ!」
おそらくは『誰が照れてるのよ!』とでも言いたいのだろう。いまさらだ、そう、いまさらなんだよ。
「取り消すなら二つ前の台詞を取り消さないと意味がないぞ」
「う……」
「でもな」
この体勢は悪くない。まったくもって悪くない。
「俺でよければ好きなだけこうしてろ。まあ……俺も嫌じゃないからな」
沈黙。ハルヒはどう受け取ったのか。会話もせず、表情も見れないとあってはわかろうはずもない。
だが人間にはボディランゲージという便利なものがある。
ぎゅっと、先ほどより強く、近い。密着しすぎて息が当たる。答えはこういうことだろう。
「……じゃあ、勝手にするから」
耳元で囁かれる声。それが心地よいのは単純に寒いからだろう。
いつだって寒さから逃れるには人肌が一番なのだ。今はこの暖かさが心地よい。ただそれだけ。
だがこのシーンを誰かに見られたら誤解されること請け合いだ。
しかしまあ一時の誤解と、このぬくもりを比べた場合天秤の傾きなど火を見るより明らかだ。
「寒いんでな、このままでいてもらうぞ。……そのうちお返しはしてやるから安心しろ」
間近、おそらくハルヒの顔の辺りの温度が上がった気がする。
後ろに重心を移し少しだけハルヒに寄りかかる。ハルヒはしっかりと受け止めてくれた。
「……絶対だからね。嘘ついたら罰金だからね」
やれやれ念まで押された。これじゃ反故にするわけにはいかないな。いろんな奴のためにもな。 |
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