桜も終わり日中は太陽が頑張り始める季節になった。
いまだ夏服を着続けないといけない学生としては窓際の席はあまりうれしくない。
ひとえに寝づらいのである。瞼を通り抜けて日差しが飛び込んでくるし、暑くもある。
そこで俺は魔が差したというか血迷ったというか、ハルヒのトンデモパワーにすがることにした。してしまった。
朝登校した後、珍しく机に伏しているハルヒに話しかけた。
「なぁハルヒ」
「…なによ」
まずいな、眠そうで機嫌悪そうな声だ。だがいまさら何でもないとは言えん。
「今日は席替えがあるな」
「…」
ハルヒは黙っている。
「去年の最初の席替え以来、俺とお前はこの席になぜか気に入られてしまってるよな」
ならべく逆撫でしないような声で話しかける。ハルヒはまだ顔を上げない。
「…そうね。不思議なことに」
「どの程度の確率かは知らないけどたいした偶然だよな」
「それが?」
ハルヒが顔を上げた。少し調子が戻ってきたようだ。
「いや、そろそろいくらなんでもこの席ともお別れしてもおかしくないんじゃないか、と思ってな」
この一言が大事なんだ。
古泉辺りの言い分を信じるなら、ハルヒが「ありえる」と思えばそれ相応の確率で物事が起きるはずだ。
「……」
ハルヒは沈黙してしまった。軽く驚いているような顔だ。…なんでだ?
「あ~…ハルヒ?俺の顔になんか生えてるか?」
「嫌なの?」
ハルヒが見上げるようにしながら聞いてくる。
「何がだ?」
「この席順が」
この場所というか窓際が暑くて寝苦しいから嫌だ、と正直に言ったら「そんなんだから赤点スレスレ低空飛行なのよ」と言われること請け合いだ。
ここは誤魔化してしまおう。
「まぁなんというか。ここから見える教室の風景に飽きちまった、ってのはあるな」
ハルヒは何故か不安そうである。
なんとなく気まずいな。
「どこ見てもあんまり面白くなくなっちまったからなぁ」
そこまで言ったらハルヒが俯いてしまった。
「…ハルヒ?どうしかしたか?」
「あたしはここがいい」
ハルヒが顔を上げて言う。涙を溜めているようだ。
「だからあんたもそこにいなさい」
ハルヒの頬に出来た一筋の痕に何も言えなくなった。
放課後の部室にハルヒは来なかった。
俺は古泉と朝比奈さんに説かれて長門に場所を聞き、そして今階段を駆けているところだ。
このままだと明日は雨が降りそうだから謝りに行こうと思ったのさ。
五月の雨は少し冷たいからな。 |