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25年前の七夕
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引用URL:ハルヒスレSSまとめ 25年前の七夕 (93-63) |
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前篇
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夕闇せまる空には星が見え始めた。梅雨時なのに、この日も晴れだったんだな。
「で、あんた、あたしにどんな用があるの?」
「…」
声だけ聞くと、まるでハルヒに聞かれたみたいだ。いや、声だけじゃない、しゃべり方もハルヒにそっくりなこの女の子は、なんと制服と髪型以外の姿かたちまでハルヒそっくりだった。少しぼーっとしてたらハルヒと話してると錯覚を起こしそうなくらいだ。あぁ、ちなみにこの目の前の子は長髪ポニーテールで、以前の改変世界で見たハルヒがポニーテールにした感じが近い。まさか七夕の日に、そしてこんな所でこの姿をまた見られるとは思わなかったな。
「それは重要なこと?」
「ああ、とても重要なことだ。俺だけじゃない、君にとっても重要なことだ」
「ふ~ん、そう。でも、あたしは普通の人間の相手をしてる暇ないの。つまんない話だったら、すぐ聞くの止めるわよ。いいわね?」
あぁ”普通の人間を相手にしない”ってこの頃から言ってたのか。子は親の鏡とはよくいったもんだ。
「残念だが、俺としてもこれからする話がつまらない話だったらどんなによかったかと思ってるくらいだ」
「ふん。大した自信ね」
「それに、そうなったのは俺のせいじゃなくて、君のせいでもある。いや、君は自覚がないだろうけど」
「何よ、あたしが以前にあんたに何をしたって言うの?」
「君が俺に何かしたわけじゃない。これからするんだ」
「なにそれ、あ~何かいらいらするわね。わかったわよ、まず事情を説明しなさい!」
「ああ」
しかし本当に口調までハルヒにそっくりだ。まあその方がこちらとしても応対しやすいけどな。ということで目の前の女の子に俺が”誰”であるか、説明を始めた。
「俺の名前は……」
そろそろ七夕だ。今年の部室も、窓際には笹があって、それぞれ願い事を書いた笹飾りがある。団員が書いた願い事だが、ハルヒは『世界があたしを中心に回るようにせよ』『地球の自転を逆回転にして欲しい』だとさ。って、それは去年と同じじゃないか? まぁあとは……いや面倒だから省略!
とにかく今年は去年と違って、ごく普通の何もない日になるはずだった。いや、そう思いたかっただけなのかもしれない。
さて部室にはハルヒもいて、長門もいて、朝比奈さんもいる。ああ、それと古泉もいるぞ。団長席に座ってるハルヒは朝から少し不機嫌な顔をしてるのが気になるが、それも何時ものことで明日には直るさ、と思っていた。そうこうしてるうちに古泉がボードゲームの中からカードバトルのものをひっぱり出してきた。まぁおれも暇だし相手をしてやるか。
「じゃ、カードを配りますよ」
古泉、そんな事をいちいち言わなくていいぞ。それに俺にウィンクすんな、気持ち悪いやつだ。そう思ってカードを手元に引き寄せてみたら、一番下のカードに何か書かれた付箋紙が貼ってある。何だこれ?
”あと2分で衝撃が来ます。そしたら涼宮さんを団長席の机の下へ”
「!?」
古泉はいつのまにか机の上に時計を置いてやがった。その時計はタイマー表示だが、って、あと40秒!?
35秒…20秒…パタン!と本を閉じる音がして、長門が立ち上がった。
「ん、どしたの、有希?」
ハルヒは不思議そうな顔で長門を見ているが、長門は窓の外を見てる。俺は直観した、これは本気でやばいことが起こるってことだ!!カウントダウンを見ると…あと5秒…4…3…2…1…
ドォォォォん!!!!!!!
大きな音とともに衝撃が部室を襲った瞬間、俺は弾かれるようにハルヒに飛びかかって団長席前の机の下に押し込んで、覆いかぶさった。次の衝撃に備え……あれ、静かになった。地震にしては揺れが続かないし、なんだ?
「もういい」
と、長門が一言。なんだよ脅かしておいてこれか? 俺がハルヒに覆いかぶさったからにはただではすまないのだが……おいハルヒ、なんで反応がない。顔を見ると、ん、寝てる?なんで?
「大丈夫、涼宮ハルヒは意識がなくなってるだけ」
「へ?」
ちょ、ちょっとまて、俺が机の下に押し込む際にハルヒの頭をどっかぶつけたか? そう聞こうとする前に長門が続けた。
「あなたは何もしてない。意識がないのは別の原因」
外を見てる長門は淡々と話し続ける。なんだ別の原因って?と思ったらよろよろと朝比奈さんが立ち上がりつつ言った。
「キョンくん、それはわたしから説明します」
朝比奈さんが”わたし”と言ってる。その姿はいつもの朝比奈さんなのだが、その後のセリフは最初の不思議探索の時に俺と話した時を彷彿とさせた。ということは、本気でやばいことが起こってるという俺の直観は間違ってなかったみたいだ。
やれやれ、今年は七夕の前にひと騒動なのかよ。
とりあえずハルヒを団長席に座らせた。これだけ見てると椅子で寝てるようだ。そういえばあまりハルヒの寝顔なんざ見たことないよな。そうやってまじまじとハルヒを見てる後ろから朝比奈さんが俺に語りかけてきた。
「キョンくん、さっきの衝撃、変だと思いませんでしたか?」
「ええ。あれは何ですか?地震じゃなさそうですけど」
「あれは時空振です」
う~ん、SFちっくな名前のものが出てきたが、そりゃなんだ?
「時間変動が起こった際に生じる振動で、いわゆる時間の”波”です。そうは言っても、わたしも初めて経験しましたけど」
「はぁ」
「でもあれ自体はそれほど大したものじゃありません。問題なのは時空振が起こった原因です。時空振が起こるのは過去に何か起こった時で、それが急激にこの時代に影響をおよぼそうとして起きるのがさっき振動なんです」
う~ん、よくわからん。何で過去に起こったことが何で地震みたいな振動になるのか、俺の貧弱な頭では理解できん。
仕方ないから思ったとおりに聞いてみよう。
「朝比奈さん、なんで過去に起こったことがあんな地震になるんですか?」
「い、いえ、ただ過去に何か起こっただけじゃ起きません。あれは過去が急激に改編された際に起きるものです」
「いや、急激って言っても過去にどうやって干渉するんです? そんなことができるのはこう言っちゃなんですけど、ここでは朝比奈さんくらいしかいないですよ」
「そうです。でもわたしは過去に行くことはできますけど、時空振を起こすような急激な改編なんかはできないです。この時空振はその時代にいないのに、外部から強力な力とかで過去に直接影響を及ぼしてしまった際に起こるんです」
「うーん、そんな強力な力を持ってるのは…長門、お前か?」
そこまで言って気がついた。長門なんか足もとにおよばない、もっと強力な力持ったやつがここにいるじゃないか!?
「ハルヒ!?」
「そうです」
なるほど、ハルヒなら何が起きても、いや起こしても確かに不思議はない。というかSOS団の人知を超えた騒動の原因は一部の例外を除いてハルヒ以外にはないからな。
「なるほど理解できましたよ、朝比奈さん。ハルヒなら何でもありですから。でも原因は何なんですか?」
「そ、それは…」
朝比奈さんは少し困惑しているが、そう言った横からいきなり顔を近づけた奴が。おい古泉、顔が近いぞ。
「それは僕から説明した方がいいでしょう」
古泉はいつものもったいぶった感じで語り始めた。
「実は昨日夜から閉鎖空間が頻発していたのですが、ある時間を境に急に消失したんです」
「古泉、消えただけならいい話じゃないのか?」
「そうです。でも、その消失した瞬間に過去に干渉していたらしいのです。そうですよね、朝比奈さん?」
古泉の言葉に首をこくっと縦に振る朝比奈さん。この2人がこういう連携を見せるのは珍しいな。
「そしてその原因は、涼宮さんがある方と喧嘩した事が原因です」
気がつくと3人が俺を見てる。ちょっとまて、俺は昨日何もしてないぞ。
「おいおい、俺は昨日はハルヒと喧嘩なんかしてないぞ」
「いえ、あなたじゃありませんよ。そこからは長門さんがご存じのようです」
古泉のセリフがあった瞬間、それまで外を見ていた長門が急にこっちを向いた。うむ、今日はこの3人の連携がいいな。
だがそれは事態が深刻だという証明だったことを思い知らされたのはこのあとだった。
「涼宮ハルヒの両親」
長門が一言、いや簡潔だ。なるほど、ハルヒのやつ親と喧嘩したのか。こいつの事だからさぞ壮絶だったかもしれない。
だが、それがどうして?
「長門、親と喧嘩するなんてハルヒでも珍しい事じゃないだろう?」
「そう。でも昨夜は違った」
「違うって何が?」
「昨夜は涼宮ハルヒは両親がいなくなればいい、と思ってしまった」
「へ?」
「そして無意識のうちにそれを実行した」
ああ、なんとなく理解できてきたよ。ハルヒのことだから、あのトンでもパワーで後先考えず過去に干渉して両親を消そうとでもしたんだろう。でもハルヒ、お前の両親がいなかったらお前生まれてこないだろうよ。何考えてるんだ、まったく。
「なるほど何となくわかってきたよ、長門」
「その振動がいつ来るかは直前までわからない。だからこの部室だけをこの時空から切り離した」
そう言って長門はまた外を向いた。一見外は晴れてて、なにも起きていなさそうに見えるが、そうじゃないんだろう。
「この部室は外界から切り離された異世界ってことか?」
「違う。でも近い概念。そして私の力だけではこの部屋の現状を維持するだけで精いっぱい」
精一杯って長門が? それは深刻な事態ってことだ。だが待てよ、この部屋が異世界みたいなものだとしたら、外は
別世界ということになる。それはハルヒの両親が別れた世界だから……
「と、ということは、もしこの部室の外にハルヒが出たら?」
「涼宮ハルヒは消失する」
「!?」
気がついたら俺は長門みたいな絶句をしてた。しばらくして冷や汗を流してるのに気がついた。あの改変世界の時の衝撃を思い出したからだ。あれは悪夢だったが、今回もそれに劣らずやばいことだけは理解できた。しかも前回は世界が変わっただけである意味ハルヒは存在してたわけだが、今回はハルヒが消えてしまうという事実が俺の心を締め付けた。
「あ、朝比奈さん!どうしたらいいんですか!? 長門、お前の力でどうにかならないのか!?」
我を忘れて叫ぶように質問を投げかけてた俺に対し、長門が今度はゆっくり振りかえって答えた。
「方法はある」
「え!?」
「でも、あなたが落ち着いて行動しないとだめになる」
「あ……ああ」
そうだ、落ち着かないと。それに今回はこの前と違ってこの3人がまだ健在なんだから何とかなるだろう。落ち着け、落ち着くんだ俺……ふう。
「い、いや、すまない長門。もう大丈夫だ。それと…朝比奈さん、過去の何を変えようとしたんですか、ハルヒのやつは?」
「細かいことはわかりません。でも大体はわかってます。どうも涼宮さんは両親の関係に干渉して関係を壊すようにしたらしいです」
うん、さすがのハルヒも両親の存在を消すということはしなかったのか。でも似たようなもんだけどな。
「朝比奈さん、その過去って何年前のことなんですか?」
「いまわかってるのは今から25年前です」
「25年って、またかなり昔の話ですね」
「それも25年前の…七夕なんです」
「え!また七夕ですか」
25年前って俺、まだ生まれてないぞ。ハルヒよ、またなんでそんな昔に干渉するんだよ、まったく。まぁそのくらいがハルヒのご両親の出会いのころなんだろうな。 ん、でもちょっと待った! 3年、いや今からだと4年以上の昔には、断層だか何かハルヒのせいで行けなくなったのじゃなかったけ?
「朝比奈さん、そんな昔にはいけなくなったんじゃないんですか?」
「そ、それが、今朝からはその時代までは行けるようになったんです。それ以外にもいろいろと時空解析とかあるんですけど。おそらく涼宮さんがその25年前の過去のある時点に干渉する際に何か条件を変えたんだと思います。それも無意識で」
ああ、なるほど。それで25年前だってわかったってことか。
だが理由がわかってもこれではハルヒは意識がないままだ。なんとか解決しないと。
「で、どうすればハルヒの意識が戻るんですか? 過去に行かないといけないんですか?」
朝比奈さんは少しうつむいたあと、俺の顔を見つめてはっきりと言った。
「そ、そうです。だからキョンくん、わたしと一緒に25年前に行ってください!!」
「は、はい?」
「どうしても来てもらわないと困るんです」
妙に力強く話す朝比奈さん。そりゃハルヒを助けるため&朝比奈さんのお願いとあらば、たとえ火の中水の中、と言いたいところだが……やっぱり俺が行くのか?
「わ、わかりました。でも何をすればいいのか??」
「それは、涼宮さんのご両親、いえ、涼宮さんのお母さんの方を説得するんです」
「俺が?」
「キョンくん、これはあなたしかできないんです」
結局、俺は朝比奈さんと25年前に行くことになった。古泉は時間旅行では超能力関係ないから今回は留守番だ。長門は部室から動けなかった。部室内に防壁を張ってるらしいのはさっき聞いたし、そのおかげでハルヒが突然消えたりせずにすんでるが、現状維持が精いっぱいなのは俺でもわかる。
「じゃあ、行きますよ、キョンくん」
「朝比奈さん、ここからですか?」
「あ、あの、この部屋から出られないんです。ごめんなさい」
ああ、そうだ。長門がこの部屋を隔離してたんだっけか。
「あ、ちょっと待ってください、朝比奈さん」
俺は朝比奈さんから離れて、ハルヒに近寄った。寝てるように見えるし、まぁ静かなハルヒはそれはそれでいいかもしれないが、あのうるさいハルヒがいないと寂しい。そう思いつつ俺はハルヒの手を握った。しばらくそのままでいたが、いつまでもこんなことしていても埒が明かないだろう。
「じゃ、行ってくるぞ、ハルヒ!」
「朝比奈さん、お願いします」
「はい!」
「あとは頼んだぞ、長門に古泉」
「わかった」
窓の外を見てる長門は数ミクロン単位でうなずいてるみたいだ。
「了解です。あなたも十分気をつけてください」
古泉は申し訳なさそうに言った。いや古泉、別にお前のせいじゃないんだから、いちいち気にするなよ。
俺は朝比奈さんとともに過去に旅立った。 |
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前篇(おまけ)
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僕と長門さんは今回は部室で留守番です。まぁ涼宮さんを預かってるわけで、大事な留守番かもしれませんが…
彼は朝比奈さんと行ってしまったらしいです。いや、気がついたらあの2人が目の前から消えてたんです。朝比奈さんの能力ってどんなものか実は興味があったんですが、まったくわかりませんでした。長門さんはじーっと外を見てますね。でも閉鎖空間での出来事じゃないので僕にはできることはありません。残念ですけど。
「しかし長門さん、今回は僕が無力であることを思い知らされました」
「…」
「よく朝比奈さんがそういうセリフを口にしますけど、今回は僕がそれを言う番ですね。そして確かにこういう肝心な時に皆さんのお役に立てないのは悔しいです」
「私もここを維持するしか能力がない」
「それだけでもいいですよ。いずれにしろ、彼に任せるしかありません。でも彼なら問題なく解決してくれるでしょう」
「……」
「それを信じて待ちましょうか」 |
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後編
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う~ん、何度経験してもこの時間を越えるという感覚には慣れないな。
「だ、大丈夫ですかぁ?」
朝比奈さんは心配そうに俺を見つめてる。いやここで心配させちゃいけないし、こんなのはこれから待ち受けるであろう試練に比べたら屁でもないんだろうからな。
「だ、大丈夫です、朝比奈さん。ところでここは部室?」
部屋の広さは、さっきまでいた部室と同じなのはわかった。ただ物がほとんどないし、なにより部屋の壁とかが綺麗だ。
「25年前の部室です。でもこの頃は誰も使ってないです」
「しかし、物がないと初めてこの部室に来た頃と同じ感じですね」
「でも、キョンくん。ごめんなさい」
急に謝り出した朝比奈さん。なんだなんだ?
「キョンくんが行かないといけない場所はここじゃないんです」
「へ?」
「実は駅前の例の、ほら、わたしがあなたに未来人と告白した、あの公園なんですぅ」
「え、あの坂を下った先の!?」
「ごめんなさい。あの部室から出るわけにいかなかったので、ここに来るしかなかったんです」
あ、そうか。あの部室は時間から長門が隔離してたんだよな。それじゃ仕方ない。
「気を付けてください。25年前ですから、少し街の様子が違います。それに制服も夏服とは言え微妙に違うので、あまり北高の生徒にみられないように校門を出てください」
「うーん、いきなりですか。じゃあ朝比奈さん行きますか!」
「あ、ちょっと待ってください。わたしはここに居残りしないといけないんです」
「え?」
あ、そういえば朝比奈さんはメイド姿だ。いや、いつものことだからすっかり忘れてた。俺の制服どころの騒ぎじゃないな。
「こ、この恰好はさすがに目立ちますからぁ」
「そ、そうですね。でも困ったな」
俺一人で解決ってことか。いきなり厳しいな。俺が状況を把握せずにハルヒの母親を説得できるのか少々自信がないし。いや、そもそもハルヒの母親って見たことないぞ。どうするんだ?
「でも安心してください。校門を出たとこで別の担当者が待っています。その人の指示に従ってください」
「べ、別の担当者?それ誰ですか?」
「ごめんなさい、禁則事項じゃないんですけど…実はわたしも知りません。でもキョンくんなら会えばわかるそうですって」
俺は未来人に知り合いなんていませんよ、と言いかけて思い出した。ああ、たぶんあの人なんだろうな。
「わかりました。じゃぁ行ってきます!」
「気をつけてくださいね、キョンくん」
部室を出ると、そこは見慣れた廊下だった。このへんは25年前と同じなんだな。幸いにしてほとんど生徒も先生もいなかったために校門までは楽にたどり着けた。ああ、靴は上履きのままだが、これは仕方ない。幸いにして25年前の七夕の日は天気がいいらしい。腹くくって俺は校門を出た。さて”あの人”はどこかな?
「キョンくん、こっちです」
電柱の影から出てきたのは、白いブラウスに黒のミニタイトスカートをはいたスタイル抜群の髪の長い女性だった。
「お久しぶり。でも、その様子ではわたしが来るとわかってたみたいね」
「まあね、もう慣れましたよ。じゃあ行きますか」
さぁ、この坂を下って行きましょう、朝比奈さん!
本当なら途中の街を少し見物しつつ行きたいとこだが、残念ながら心にその余裕がない。25年前と言えば、俺が生まれる前で、昭和の最後の方なんだろう。すれ違う車が少々古いし、そもそも高い建物があまりないな。途中の商店の七夕飾りに198*年とあるのが見えたし、途中目についた駅までの案内図を見ると”国鉄”とあったからここは確かに25年前なんだろう。
そうこうするうちに例の公園の入口にたどり着いてしまった。だいぶ雰囲気違うが、場所的にはこの公園で間違いないはずだ。
「キョンくん、こっちです」
俺は朝比奈さん(大)と一緒に公園に入った。
さて、公園の茂みの中で待機中の俺と朝比奈さん(大)だが、まだ肝心な事を聞いてない。
「で、ハルヒの母親と何を話せばいいんです?」
「正直に話してください。そしたら彼女はあなたを信用します」
「未来から来たことを、ですか?」
「そうです。そしてこの時代にきた理由も、です」
「ハルヒのことを話すんですか?うーん、こんな突拍子もない話を信じてくれるんですか?」
「そこは涼宮さんと同じなんですよ。子は親の鏡と言いますけど、彼女も涼宮さんと同じ思考してるんです」
ということは、あの自己中心的・傍若無人・猪突猛進・唯我独尊かつ変人なものも親子そっくりなんだろうか?
「同じ思考って、もしかしてハルヒの母親もハルヒと同じ能力を持ってるとか?」
「いえ、それはありません。彼女は普通の人間なんです。我々も不思議に思ってるんですけど、それは間違いないです」
ああよかった。あんな力が突然ハルヒに宿るのはそれはそれで怖いが、代々遺伝で伝わって方がもっと怖いからな。
「あ、でもキョンくん、2点注意があります。まず、あなたや涼宮さんの名前だけは言わないでおいてください。それと涼宮さんにも誰にもこの事を伏せておくように彼女にお願いしてください」
「は、はあ…」
「それ以外はあなたの思ったまま話してください」
うーん、大丈夫か?何か不安だな。そう思ってる所に聞いたことある声がする。少し怒った感じで大声で話すハルヒそっくりの声だ。
「ほらキョンくん、来ましたよ」
「朝比奈さん。声だけ聞くと、まるでハルヒが話してるみたいですね」
「ううん、声だけじゃありません。姿もそっくりなんですよ」
さてハルヒそっくりな声した女の子は一方的にまくしたててる感じだ。ここからじゃ見えないが、どうやら相手に対して怒ってるな。
何だか俺に対して言うのと同じだな。お、相手が見えてきた見えてきた……おや、あれは男だな。俺に似てるような似てないような。
「キョンくん。あれが涼宮さんのお父さんになる人です」
「ええ!?」
「このあと、本来の時空であれば仲直りするはずなのに、涼宮さんが過去のお母さんに影響を及ぼしてしまうんです」
ああ、そういう事か。ここで別れさせてしまうのか。お、男の方が何か言ってるぞ、と思ったらハルヒそっくりな子がそれを遮って一方的に話し始めた。
「なんだかこうやって見てると夫婦喧嘩みたいですね」
「今回のこれはそうです。涼宮さんが干渉しなければ、ただの恋人の喧嘩ですんでたことなんです」
「影響とか干渉って…ハルヒのやつ、何をしたんですかね?」
「何と言ったらいいかわかりませんが、悪魔のささやきみたいに心に語りかける程度です。でもこのままだと今の彼女はそれを自分の心の声だと思いこんでしまうんです」
うーん、何だか悪魔のコスプレしたハルヒが自分の母親に悪戯する絵が頭に浮かんでしまった。いや、事態はそんなの生易しいもんじゃないのはわかってるよ。
「しかしあの彼がハルヒのお父さんですか。結構一途なんですね、ハルヒのお母さんって人は」
「そこも涼宮さんと同じなんですよ。子は親の鏡ですから、彼女も涼宮さんと同じで恋も一途なんです」
「ふーん……って、ハルヒが?」
「そうですよ」
何を言ってるんだ、朝比奈さん?と思ってると、彼が何か言って、どっか行ってしまった。その表情ははっきりと見えないが、どうもやれやれといった感じに見えた。なんか俺を見てるような気分だが、それは気のせいなんだろうか。
「じゃあキョンくん、行きましょうか」
といって朝比奈さん(大)は立ち上がった。って朝比奈さんも行くのか!?
「一緒に?」
「うん、でも最初だけです。さすがにあなた一人でいきなり話しかけても彼女に警戒されるでしょ?」
「うーん」
でも確かにいきなり俺が話しかけたら怪しいわな。それと事情を知ってる人がいてくれると何かあったとき助かるし。そう思ってるうちに朝比奈さん(大)は茂みから出ていってしまった。おっと俺も付いていかないと。あわてて道に出るとベンチに座ってる女の子が見えた。
制服が今と違って少しスカートの丈が長い感じだが、それ以外はハルヒそっくりな子がそこにいた。髪型は…なんとポニーテールだ。
間違いない、この子がハルヒの母親だ!
「キョンくん、あたしが声をかけてきっかけをつくりますから、その後彼女と話してください」
「大丈夫なんですかね?」
「あなたなら大丈夫です」
うーん、何を根拠にそんなに自信たっぷりに言うんですか、朝比奈さん。と、そう思ってるうちにその子に声をかけてた。
「こんにちわ」
朝比奈さん(大)が声をかけるとハルヒが顔をあげた。いや、ハルヒの母親だけど…いや近くから見てもそっくり、いや本人と瓜二つだ。
まぁ親子なんだから不思議はないが。
「なに?」
ハルヒ…いや、この子が答えた。よく見ると少し目が赤いが、泣いてたのかな。
「あなたに話があるの。ごめんなさい、少しでいいから時間をくれないかしら?」
朝比奈さん(大)は笑顔でそのハルヒそっくりな女の子に話しかけた。ああ、この笑顔は見る者すべてを恋に落としそうな笑顔なんだよな。
「話って何よ?」
口調はハルヒっぽいが、どうやらこの子は朝比奈さん(大)の笑顔で警戒を少し解いてくれたみたいだ。さすが朝比奈さん。
「ううん、あたしじゃないの。この男の子があなたにしなきゃならない話があるの。聞いてくれる?」
「何よ、新手のナンパ?」
ハルヒならこういうのは即答で返さないと聞いてくれないだろうから、ここは俺が答えるべきだろう。
「違う。だが君の未来にかかわる話だ」
「ふーん、そう」
口調こそ興味なさそうだが、”未来”というキーワードを聞いた瞬間、目が好奇心であふれたのがわかった。
「じゃぁ、あとはよろしくね♪」
朝比奈さん(大)はそう言って、行ってしまった。いや、ほんとに最初だけなんだな……
そして冒頭のシーンに戻るわけだ。
「俺の名前は、ジョン・スミス」
「はあ?」
ハルヒそっくりな子はあきれたように俺を見た。いや、俺だってこの名前を言いたくはないんだぞ。しかし4年前の七夕に続き、今度は25年前の七夕でもこの名前を名乗るとはなあ。
「訳があってそう名乗ってる」
「偽名ってこと?」
「いや、偽名であって偽名じゃない。この名前は他で使ってるからな」
「ふーん、まぁいいわ。続けて!」
「それと、これから俺が言う話は突拍子もないものに感じるかもしれないが、信じてほしい」
「わかったわよ、いいから続けなさい。あ、でも立ったままだと疲れるでしょ。こっちに座る?」
「ああ、そうさせてもらうか」
そしてハルヒ…じゃないこの子の隣に座って話を続けた。
「俺は未来から来た。今からちょうど25年後の世界から、だ」
「…」
「そして来た理由はただ一つ、君の娘を助けるためだ」
「あ、あたしの…娘?」
「ぶっちゃけて言おう。さっきの彼と仲直りしてほしい」
「え!?あ、あいつとあたしの未来の娘とどういう関係があるのよ?」
”どういう関係”ってここまで話せばわかると思ったんだが、この子はやっぱりハルヒに似て鈍感らしい。やっぱり親子似た者同士だな。
「ま、まさか!?」
「そう、そのまさか、だ」
「ちょっと、ウソでしょ!? なんであたしがあんな奴と一緒にならないといけないのよ!?」
おい、お前、何をパニくってる。
「さっきの彼がどんな奴なのかは俺は詳しく知らないし、いろいろ事情があるんだが、とにかくその彼と仲直りしてくれないと君の娘の存在が消えてしまう」
俺のセリフを聞いて、この子は何か考え込んでしまった。だが、その前に俺が未来から来たというのを疑う方が先だと思うのだが、あの彼氏…いや、ハルヒの父親か…との関係が先に気になるみたいだ。
しばらく考え込んでいたこの子が顔をあげて俺に話しかけてきた。
「あんた…いや、ジョン? 未来から来たって言ったわね」
「ああ」
「じゃああんたは未来人って事?」
お、”未来人”ってハルヒが使ってた言葉だ。ということは、これもハルヒのオリジナルじゃなかったんだな、やれやれ。
「君から見ると俺は未来人という事になるな」
「その証拠はあるの?」
お、この子はやっと俺を疑う気になったらしい。ここは朝比奈さん(大)の言うように正直に話しておくか。
「いや、ないな。俺は未来から君に会うために連れてこられただけで、時間を越えるのは他の人の仕事だ」
「他の人って、さっきのお姉さん?」
ああ、お姉さんって朝比奈さん(大)の事か。
「いや、あの人は違う…いや、厳密にいえばそうかな」
「何それ、どっちよ?」
「俺はあの人と一緒にこの時代に来たわけじゃないから、違うといえば違う」
同じ朝比奈さんなんだが、あれは(大)の方だから少し違うもんな。
「まあいいわ。まだ信じられないけど。でもあんたが未来人って事の方が面白いから、信じてあげるわ」
「ああ、その方が助かるし、話が早い」
おいおい、面白いから信じるってか。ほんとにハルヒと同じ思考なんだな。
俺の横にいるハルヒの母親になる子はつづけて聞いてきた。
「じゃあジョン、あんたが未来人なら聞くけど未来にE.T.いるの?」
「なんだ、いーてぃーって?」
「何って宇宙人のことよ。映画で有名じゃない。あんた、そんなの知らないの?」
そう言われればそんな映画があった気がする。あれって宇宙人が出る映画だったのか?
「すまん、それ昔の映画だから見たことないんだ。でも宇宙人なら会ったことあると言えるな」
「じゃあ、超能力者も?」
「そんな奴にもあったことあるな」
「じゃ、異世界人も?」
「それは会ったことない」
おいおい、ここまでハルヒと同じか。というか、ハルヒのトンでもな部分は全部母親ゆずりなのかよ!?そう思ってると、その子は俺の目を覗き込んだ。ああ、こうやって見ると本当にハルヒそっくりだな。
「うん、嘘は言ってない目ね」
ハルヒそっくりなこの子は俺に向かってそういってきた。うん、お前目を見ただけでわかるのか?
「そうか?」
「ん?じゃあ今言ったことは嘘なの?」
「残念ながら嘘はないな。というか俺だって好きでこの時代に来たわけじゃない」
「あたしの娘のため、でしょ?」
「ああ」
「じゃあ教えて。あたしの娘ってどんな感じの子なの?」
「君そっくりだな。顔も目も背の高さも。いや、髪型と制服以外は君と同じと言ってもいい」
「ふーん、じゃ性格は?」
「自己中心的・傍若無人・猪突猛進・唯我独尊」
「へ?」
「退屈が嫌いで、何か面白そうなことをいつも探している。んで、かなりの短気で飽きっぽい」
「…」
「君がどんな子が知らないけど、俺が知ってるハ…いや、君の娘はそんな感じだ」
「そうなの」
あ、考え込んでる。言いすぎたか?と思ったら意外な質問を俺にぶつけてきた。
「ジョン、そういうあんたはあたしの…その…娘をどう思ってるの?」
「ん?」
「あたしの娘を救うために時間を飛び越えて来たんでしょ?」
「ああ、そうだ」
「あんたは娘の彼氏なんじゃないの?」
そりゃまた意外なこと聞いてくるな。そこは正直に答えておこう。
「ん~君の娘に言わせると、自分は団長で俺は平の団員扱いだ。俺は君の娘が必要な存在だと思ってるけど、あいつは俺なんか必要としてないかもな。それにあいつ曰く、”恋愛感情は精神的な病の一種”だとさ。俺が彼氏なんて言ったら、君の娘にぶん殴られるだろうさ」
驚いた顔をして聞いてたこの子は急に100Wの笑顔になった。
ああ、この笑顔までハルヒと同じなんだな。
「それは……きっと照れてるだけよ」
将来ハルヒの母親になるこの子は妙な事を言い出したぞ。
「どうしてそんな事わかるんだ?」
「あたしもそのセリフ言ったことあるからよ。でもそれってあいつに対して恥ずかしかったから言い訳で使ってただけ」
「あいつって、さっきの彼か?」
「そう。でもそれを言った後に後悔したわ。あいつがそれを本気で受け取ってしまって、何にもしてくれなくなったから」
「そりゃそうだ。そんなセリフ吐かれたら、君に好きだなんて言いにくくなるだろう?」
「そうよね。あんなこと言わなきゃよかった」
おいおい、そんなの別に今からでも撤回して言えばいいだろうさ。君はそいつが好きなんだろう?だったら正直にそういえばいいのに。そう思った俺はそのまま言ってみた。
「だったら正直にあいつにそう言えばいいじゃないか」
「そ、そんなの、恥ずかしいから」
「ちょっと待て、恥ずかしいとかそんな事言ってたら、そいつはますますどっか行ってしまうぞ。君はそれでいいのか?」
「…」
「君の娘のためだけじゃない。君やあいつのために、そんな後ろ向きでいたら2人とも不幸になっちゃうじゃないか!」
「…」
「今からでも遅くない。ちゃんと思った事を伝えるんだ」
「わかったわよ」
うーん、いかん。つい感情的になってしまった。でもこれで皆八方丸く収まるからそれでいいだろう。そう思ってる俺にこの子が意外なことを言ってきた。
「そういうジョン、あんたはどうなの?」
「ん?」
「あんた、あたしの娘を助けるために時間を越えてここまで来た。それだけ好きなんでしょ?」
そのずばっと切り込んできた言葉に俺は動揺した。
「そ、それは…わからない」
な、何を言ってるんだ。ハルヒが俺なんか相手にするわけないじゃないか、そう思ってるうちにさらに畳みかけるように俺に詰め寄ってきた。
「何が”わからない”よ! あんたもそう言って逃げてるだけじゃないの!?」
「…」
「わかったわよ、ジョン。あたし、あいつに正直に自分の気持ちを伝えるわ。だからあんたも帰ったらあたしの娘にちゃんと自分の気持ちを伝えるのよ、いいこと!?」
「で、でもハ…いや、君の娘が俺に好意を持ってなかったら、俺は…」
「なによ、さっきまでの自信はどこいったの? そんな後ろ向きでいたらジョン、あんたもあたしの娘も2人とも不幸になっちゃうわよ!」
それはさっきの俺のセリフじゃないか。やれやれ、ブーメランみたいに帰ってくるとは。
「心配いらないわ。あたしの娘なら絶対にあんたを受け入れてくれるわよ♪」
「ど、どうしてそれがわかるんだ?」
次の瞬間、この子は100Wの笑顔になって答えた。
「そう感じるの。あんたなら大丈夫だって。でも、あたしの娘って幸せ者なのね」
「え、なんでさ?」
「だって、未来から時を越えて助けてくれるあんたみたいな人がそばにいるんでしょ?」
「いや、今回のはまだ楽な方じゃないかな。結構大変なんだぞ、君の娘の相手するのって」
「ふーん。ところであたしの娘ってどんな名前なの?」
「すまない、名前は言っちゃいけないらしい。あと、君の娘をはじめ他の人にはこの話は伏せておいてほしい」
「へ~変なの。まぁいいわ。あんたの話、結構面白かったし、伏せておいてあげるわ」
「ああ、頼む」
気がつくと、だいぶ空が暗くなってきた。天の川は見えないが、今日は織姫も彦星も見えるかもな。
「話はそれだけ?」
しばらくしてハルヒ…いや、ハルヒそっくりな子は俺に話しかけた。ああ、ハルヒの両親の仲を元に戻すのが俺の役目なんだから、それが出来そうならもう俺の話は必要ないだろう。
「ああ」
「わかったわ、ジョン。あたしはあいつのところに行けばいいのね」
「ああ、そうだ。だが、まず先に携帯のメールで一言謝っておいた方がいいだろうな」
「携帯?メール?なにそれ?」
あ、しまった。ここは25年前だ。携帯電話も電子メールもないんだっけ。
「い、いや、それは未来の電話だ。ほらこれだ。これで俺の時代はそれですぐに本人に電話できたり手紙を遅れたりできるんだ」
「ふーん」
彼女は俺が取り出した携帯電話をしげしげと見ている。まぁ確かに珍しい未来の道具だもんな。
「よくわからないけど、未来はこんな機械で電話してるの?」
「ああ」
「ふーん。なんかSFみたいね」
「そうかもしれないな」
「あのさ、ジョン。最初からこれ出してくれればすぐ信じたのに」
「俺の時代には当たり前すぎて気がつかなかったんだ。すまん」
「まぁいいわ。でもそんな便利な道具が未来にあるなら、あたしの娘にも戻ったらすぐ連絡とってあげてね。でも、告白は面と向かってちゃんと言うのよ。約束してよね」
「わかったよ」
「あたしはあいつの家に行ってくるわ。この時代にはまだ個人の電話なんて便利な道具ないし」
「ああ」
「じゃあジョン、またね。未来のあたしの娘によろしく♪」
そう言って、ぴょんとベンチから立ち上がった彼女は、くるりと俺に背を向けて走って行った。ポニーテールが左右に跳ねていくのを俺が見届けたが、すぐその姿は消えてしまった。
「ありがとう、キョンくん。終わったみたいですね」
いつの間にか俺の後ろに朝比奈さん(大)がいた。
「ええ、終わりました。でも朝比奈さん、あれでよかったんですか?」
「あれでいいんです。彼女は涼宮さんの影響を跳ね返して、彼とよりをもどしてくれます。そしたらすべて元に戻ります」
「そうですか」
「じゃああたしたちは北高に戻りましょう」
「え?また坂を登るんですか?」
「高校生のわたしが部室に待ってるんです。行ってくれないと困ります」
とほほ、またあの坂を登るのかよ、やれやれ。でも朝比奈さんが待ってるんだから仕方ないか。
北高に戻った俺は朝比奈さん(大)とわかれた。ぎりぎり門がしまってなかったので、なんとか入れてよかった。部室棟まで隠れるように近づいて入って行き、部室のドアをノックすると朝比奈さんが開けてくれた。電気もつけずに待っててくれたらしい。
「キョ、キョンくん、おかえりなさい。もう終わったんですかぁ?」
「ええ」
「ふぇぇ、よかったですぅ」
何だかいつもの朝比奈さんに戻った感じだ。俺はこっちの朝比奈さんの方が好きだな。
「じゃあ帰りましょう。25年後の七夕に」
朝比奈さんと俺はこうして現在にもどった。
「いや、おかえりなさい。早かったですね」
部室に戻ると、古泉がにこにこスマイルで語りかけてきやがった。
「何言ってる。向こうでは結構時間かかったんだぞ」
「いえ、ここでは5分ほど前に出たばかりなんですよ。でもその様子だとうまくいったようですね」
「ああ。それよりもハルヒは大丈夫か、長門?」
「もう大丈夫。あとは目覚めるのを待つだけ」
「よかった」
ハルヒは相変わらず団長席で寝てる。ああ、こうして黙っていてくれると美少女なんだよな。しかし本当にさっきあったハルヒの母親とそっくりだね。
「じゃ、じゃあ…あの…キョンくん、あとはおまかせします。涼宮さんを起こしてあげてください」
ん、朝比奈さん、どうしたんだ?なんで赤くなってるんですか? なんでドアににじり寄ってるんですか?
「涼宮さんを起こすことができるのはあなただけなんです」
「へ?」
不思議に思ってると、長門が一言こういった。
「Sleeping Beauty」
長門、それって……
「いや、邪魔者は消えます。あとはよろしくお願いしますね」
おい古泉、どこへ行く?
そうこうしているうちに3人とも部室の外に出て行ってしまった。ちょっとまて長門、それってまさか……あの閉鎖空間の中でした事と同じことをハルヒにしろって言うのか?? やれやれ。そう思って、ハルヒの顔を再度見た。そうだ、25年前の七夕にハルヒの母親だったあの子は俺に約束をさせたんだっけ。
”ハルヒにちゃんと告白しろ”って。
ああ、でも携帯やメールはいらないな。こうやってハルヒ本人が目の前にいるんだから。
さて俺にとって、ハルヒとは何だろう。以前、閉鎖空間の中でもそれを自問自答したが、答えは一つだ。
ハルヒが俺を受け入れてくれるか心配だが、まぁまず起こそう。そして、眠り姫を起こすにはこれしかない。
俺はそっとハルヒにキスをした。 |
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