|
キョンの誘惑
|
|
「ふう、暑いな」
「あたしにも扇いでよ」
パタパタと下敷きをしならせながら、ハルヒに風を送ってやる。確か以前もハルヒに同じことを言われたな、その時は拒否したが今回ばかりは扇いでやる。
何しろ今日はマジで暑いし、下敷きや電池式の小型扇風機など風を生みだす道具を何一つ持っていないハルヒが、また入学当時のように突然この場で制服を脱ぎだしたら皆の目のやり場に困るからだ。
今日の朝、登校する前に見ため〇ましテレビの天気予報じゃ今日は今年一番の夏日になると言っていたが、どうやらその通りのようだ。何もしていないのに額や背中からうっすら汗が滲み出てくる。
さっき谷口と国木田が教室の窓とドアを全開にして風の通り道を作っていたが、それもうまく功を奏しなかった。
ハルヒ、お前のトンデモ能力で涼しくしてくれ。朝比奈さんの時代の未来に影響が出ない程度にな。
「ダメだ、暑すぎる。ネクタイなんかしてられん。ハルヒ、下敷きは少しだけお前に貸してやるよ」
「な、なによ、今日は変に優しいわね。そんなことしたってアンタは永続的に雑用よ!?」
ハルヒの意味不明に喧嘩腰なセリフに対しへいへい分かりましたよと適当に返し、俺はネクタイを外してYシャツのボタンを2つ空け、胸元のところをつまんでバサバサと風を中に送り込む。
うむ、いくらか涼しく感じられるな。男はこうして涼むことが出来るが、女がこれをやっちまうと色々とまずい。俺を男として産んでくれた両親に感謝しておこう。
「ちょっ、ちょっとキョン!!」
「ん?どうした?扇げってか?下敷き貸してやるんだから自分で扇げよ。そこまで優しくしてやることで俺が得られる利益を分かり易く説明し…」
「ち、違うわよバカキョン!ななな何やってんのよ!!」
「何って…俺なりにどうすれば涼しくなるか模索していたんだが」
「だからってそれは胸元空けすぎじゃないの!!それじゃアンタの肌が…あっ」
「ん?何だって?すまん、聞き取れなかった。もう一度頼む。あとそう騒ぐなよ、さらに暑くなるだろう」
何をさっきから顔真っ赤にして手をバタバタしながら騒いでんだハルヒは。暑いんだから少しでも涼しくなろうとするのは普通だろうて。
それにしても暑い、前髪が額についちまう。キザったらしくて嫌だが前髪を上げるとするか。
「うっ…ち、ちょっとキョン!アンタいい加減にしなさい!!」
「何のことだ?お前の気に障るようなことしたか?」
「うぐっ…してないけどダメなの!!」
つまり俺はハルヒの気に障ることは何一つしていないが気に障っているようだ。俺の存在が腹立たしいのか?
「説明してもらわないと全然分からないんだが」
「えっと…その、つまり…だから」
「ねぇ、なんか今日のキョン君セクシーじゃない?」
「あ、ほんとだ…なんか涼宮さんの顔赤くない?」
「よく見たらキョン君かっこいいよね。あたし狙っちゃおうかなぁ♪」
「!!……キョン!あんたのそのダラけた恰好が団則に違反しているのよ!そうよ、団員たるもの常に生徒の模範となるような服装でないとダメなの!」
「文芸部室を非公式に占領しといて何をたわけたことを言ってんだ、今さら俺たちに模範も何もないだろうよ」
「それはそうだけど…!!でもダメ!とにかくその恰好を正しなさい!」
そうか、暑さのお陰でピリピリしてんだな。だから理不尽な言動をしてるのか。仕方ない、少々納得いかないがこいつに購買でジュースでも買ってやろう。
100円かそこらでハルヒのストレスと俺に対する八つ当たり、苛立ちで閉鎖空間が発生しないとも限らないという懸念の3つを一辺に解消出来るかもしれないのなら安いもんだ。
「ハルヒ、俺はこれから購買でジュース買ってくるんだがお前の分も買ってきてやるよ。何が飲みたい?言っておかなくてもお前なら分かるだろうが、勿論オゴリだ」
「…!!あたしを見るなぁ!キョン!!アンタ何が狙いなわけ!?言いなさい!」
「何って…たまには団長様にも優しくしとかないと団員である俺の立場がさらに悪くなるだろ?いいから言えよ、ハルヒ。何が飲みたいんだ?」
「…っ、この!!…じゃあ何でもいいから買ってきて!頼んだわよ!」
「?…あぁ分かった。あ!財布を家に忘れちまった…ん、ポケットに100円はあるな。ハルヒ、ジュース1本しか買えないから俺と半分ずつ交互に飲むってことでもいいか?」
「う~、バカキョン!あたしをどうしたいのよ!!!」
俺の為世界の為という裏事情こそあるが、優しくしてやってんのに何で俺はここまで怒られねばならんのだ?ハルヒ、顔を真っ赤にしてまで怒ることないだろう。 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|