大学生になった俺は一人暮らしを始めた。
ただし同じ大学に進んだハルヒがしょっちゅう遊びに来るので一人暮らしという実感がわかないのが難点だ。
それでも助かっている面もある。食事、掃除、洗濯など家事全般だ。
おそらく俺の3倍はうまくやれる。なので無下に断れないのがつらいところだ。
しかしそこまでは許しても泊まっていくのはどうかと思う。
男の独り暮らしの家に一人で泊まるなんて襲ってくれっていってるようなもんじゃないか。
まったく、俺だからいいものの。俺が紳士であることに感謝しろよ。
そんな生活にも慣れた冬のある日
今日もグダグダと居座ったハルヒ。帰るのが面倒なので泊めていけと抜かしやがる。
ここは「NO!」と突っぱねたいところだが今日のキムチ鍋のあまりの美味さに勘弁してやろう。
こいつを嫁にする奴は苦労するだろうけど幸せになるぞ、きっと。
ハルヒはコタツから首だけ出している。ハルヒはコタツで丸くなる。
仕方ないので布団を敷いてやる。驚くなかれこの布団は来客用ではなくハルヒ用だ。
「おい、ハルヒ布団敷いたぞ。寝るならこっちで寝ろ」
「ん~」
半分寝ているのか口を猫の口ような形にして生返事。シャミセンは元気だろうか。
肩をゆすって起こしにかかる。
「ほら、風邪ひくぞ。前の俺みたいに」
「ん~じゃあ風邪ひいたら看病してよ。前のお返しに」
「あのときのことは感謝してるよ、でも俺はお前みたいに看病がうまくない。ほら布団で寝ろって」
「え~。じゃああっためてよ」
「何を」
「布団」
「どうやって」
「あんたが入って」
「できるか、そんなこと」
「じゃあここで寝る~」
本気で寝かねない。ホントにしょうがない奴だな。
布団に入る。…冷たい。そりゃ当たり前か。はやくあったまって欲しい。
しかしこの布団…ハルヒの匂いがする。正直ヤバイ。くらくらしそうだ。おかげで早くあったまりそうだが。
なんて悶々としていると体に何か当たった。
なんだ?と思う間もなくハルヒが布団に入ってきた。
「な!?おい、ちょっと!?」
混乱の極みにある俺。そんな俺をあざ笑うかのようにハルヒの顔が俺の目の前に現れた。
「ん。あったかい」
その吐息すら俺に届く距離。布団はそんなに大きくない。2人が入るには小さい。
だから、結果的にハルヒと絡み合う様な体勢になってしまう。
ハルヒの顔、ハルヒの吐息、体中に当たるハルヒの感触、体温すらも伝わる距離。
「どうしたの?顔、赤いわよ」
こいつはっ!誘っているのか素なのか、俺には判断つかない。
だけど理性はもってくれない。俺はハルヒを抱きしめようとしていた。
そこに聞こえてきたのは
「すーすー」
という寝息。
あろうことかこいつは本当に寝やがった。俺と同じ布団にいるというのに。
上がったテンションが下げられない。結局その夜は眠れなかった。だから俺は一晩中ハルヒの寝顔を見ていた。
ちょっとした腹いせにゆっくりと、そーっとそーっと抱きしめてみたりした。
俺は翌日ハルヒに一言言ってやることに決めた。
「ハルヒ、好きだ。俺と付き合ってくれ。できれば結婚を前提に」
ハルヒは特に驚きもせずに溜息一つついて言った。
「普通さ、あれだけしたらもっと早く行動すると思うんだけどね」
………まさか最初から俺に告白させる為に?
「あんた鈍感すぎ」
だったらお前から言えばよかったじゃないか。
「そんなの負けたみたいで悔しいじゃない」
もしかしてお前結構前から俺のことを…
「気付くのが遅いわよ、ばぁか!罰としてあたしを幸せにすること!いいわね!」
こいつは俺の決死の告白の最後しか聞いていなかったんだろうか、まあ一番大切なところを聞いていたのでよしとしよう。 |