|
長門有希の嫉妬
|
|
長門有希の嫉妬1
|
感情とはどういうものなのは、やはりよくわからない。私の監視対象の一挙手一投足を観察していても参考にならないことが多いから。でも私は観察し続ける。それが任務だから。
「で、今朝なんだけど下駄箱にこんなのが入ってたのよ。」
”涼宮ハルヒ”がひらひらとさせている右手には封筒が握られている。
「へぇ。ハルヒ、いまどきお前にラブレターを送るツワモノがいるんだな。」
「失礼ね!。あたしこれでも中学時代は結構こういうのをもらってたのよ。」
「で、ハルヒ、お前受けるのかよ、それ?」
”彼”は平然を装っている。だが心拍数が上がって、内心動揺している。
「何言ってるの、キョン。即効で断ったわよ。」
「へ?」
”彼”の心拍数が急に通常に戻った。動揺しているのは変わらないが、少し落ち着いたものと推測される。
「何よ、その間抜け顔。それともキョン、あたしに受けて欲しかったの?」
「だって、その中学の時は断るって事しなかったんじゃなかったのか?」
「その時はそれ。これはこれよ。そんなの面倒だし受ける気ないわ。」
「ハルヒ、中学の時は面倒じゃなかったのか?」
「面倒だったわよ。でも、謎探しのために仕方なしにやってたことよ。」
「今は違うのか、ハルヒ?」
「今はSOS団もあるし、なによりキョン、あんたがいるじゃないの。」
「…」「…」「…」
彼を含め他の3人の動きが停止した。だが”涼宮ハルヒ”は自分が言ったことの意味をまったく理解していない。
そして彼の心拍数がまた上がっている。だが今度は別の意味で動揺していると推測される。
「何?どしたの?みんな何止まってるの?」
”朝比奈みくる”が部屋の沈黙を破った。
「そ、そうですよね。キョンくんがいるんだから、お付き合いする人はもういらないって事なんですよね♪」
”涼宮ハルヒ”は自分の言ったことを、ようやく理解した模様。
「ち、違うわよ! み、みくるちゃん、別にキョンがいるからとか、キョンが嫌がるからとかじゃなくて……」
「…」「…」「…」
「ちょ、ちょっと、みんな何よ? キョ、キョン、別にあんたのせいじゃないわよ!」
”涼宮ハルヒ”は顔を真っ赤にして反論している。彼女の心拍数は増大中。
「わかったわかった。ハルヒ、まぁ落ち着け。」
「あ、あたしは落ち着いてるわよ! そうよね!古泉くん。」
「い、いや~どうでしょう。」
「おいハルヒ、団長だからって団員に無理に自分の意見押し付けんなよな。」
「なによ、キョン。 というか、あ、あんたは受けて欲しくなかったんでしょ!? だ、だからよ!」
「なんでそこで俺の意見が出て来るんだよ?」
そう、私の監視対象たる”涼宮ハルヒ”ともう一人の監視対象の彼はお互いに”恋愛”に相当する感情を持っているはず。だが、お互いに未だにそれを表に出そうとしない。何故なのかは不明。
そして私の中で渦巻く不明なエラーの数々。これが感情というものなのだろうか……
それとも嫉妬というものなのだろうか…… |
|
長門有希の嫉妬2
|
感情とはどういうものなのは、やはりよくわからない。私のもう一人の監視対象の一挙手一投足を観察していても参考にならないことが多いから。でも私は観察し続ける。それが任務だから。
「キョン、あんた今日ここに来る途中どこ寄ってたのよ?」
「何の事だ?」
この部室に”彼”が入った直後に彼女は質問を投げかけた。”彼”は平然を装っている。だが心拍数が上がって、内心動揺している。
「体育館の裏で何してたのか、って聞いてんのよ」
「ハルヒ、見てたのか?」
「質問に質問を返すなって小学生の時に教わらなかったの、あんたは!」
彼女の心拍数も上がってる。そう、彼女は人間なのにあの”力”を生んでいる。とても不思議。
「別に後ろめたい事してたわけじゃないぞ」
「じゃあ、あの女の子は何なのよ?」
「やれやれ、そんなトコまで見てたのか。わかったよハルヒ、説明してやる」
”彼”はそう言うと、ポケットから手紙を取り出した。その次の瞬間に彼女は”彼”の手からその手紙を奪い去った。
「おい、ハルヒ、何す…」
「なになに”あなたの事が好きです。今日の3時半に体育館の裏手で待っています”って?」
「おい、大声で読むな。書いた子に失礼だろ」
「キョン、これラブレターじゃない!?」
「ああ、そうらしいな」
「ふん、あんたにラブレターなんて驚天動地よね。で、それ受けたの?」
彼女は平然を装っている。だが心拍数が上がって、内心動揺している。
「何言ってんだハルヒ、即効で断ったぞ。あの子には悪かったけどな」
「はぃ?」
彼女の心拍数が急に通常に戻った。動揺しているのは変わらないが、少し落ち着いたものと推測される。
「何だよ、その顔は。それともハルヒ、俺が受けた方がよかったのか?」
「そ、そんな事言ってないわよ。でも何で受けなかったのよ?」
「何でって、ハルヒ、お前だけで十分だろ」
「…」「…」「…」
”彼”以外の3人、彼女と朝比奈みくる、古泉一樹の動きが停止した。だが”彼”は自分が言ったことの意味をまったく理解していない。 そして彼女の心拍数がまた上がっている。だが今度は別の意味で動揺していると推測される。
「何だよ?ハルヒ、どうした? というか、みんな何で静止してるんだ?」
朝比奈みくるが部屋の沈黙を破った。
「そ、そうですよね。キョンくんは涼宮さんがいるんだから、お付き合いする人はもういらないって事なんですよね♪」
”彼”は自分の言ったことを、ようやく理解した模様。
「い、いや、違いますよ!朝比奈さん。別にハルヒがいるからとか、ハルヒが嫌がるからとかじゃなくて……」
「…」「…」「…」
「ちょっと、みんな何だよ? ハ、ハルヒ、いや、そのだな、別にお前のせいじゃないぞ」
「いや、しかしここであなたが団長に愛の告白をされるとは思いませんでしたね」
「おい待て古泉、勝手に決めつけるんじゃない!」
”彼”は顔を真っ赤にして反論しているが、彼女も顔を赤くしている。そして”彼”も彼女の心拍数も増大中。
「ちょっとキョン、どういう事か説明してもらうわ。あとみんな留守番よろしく!!」
そう言って、彼女は”彼”のネクタイをつかんで、扉まで引きずっていった。
「わ、ちょっと待てハルヒ、ネクタイをつか…」
”彼”がすべて言い終わる前に、2人は扉の外に出て行ってしまった。
そう、”彼”と私の監視対象たる”涼宮ハルヒ”はお互いに”恋愛”に相当する感情を持っているはず。だが、お互いに普段はそれを表に出そうとしない。何故なのかは不明。
そして私の中で”彼”に対して渦巻く不明な情報エラーの数々。これが感情というものなのだろうか。
それとも嫉妬というものなのだろうか。 |
|
長門有希の嫉妬3
|
感情とはどういうものなのが、やはりわからない。私の監視対象の一挙手一投足を観察していても参考にならないことが多いから。でも私は観察し続ける。人間というものを理解するために。そして、人間に近づくために。
「うーん、ここからキョンは見えるけど、何言ってるかまではわかんないわね」
ここは旧校舎の屋上。体育館の横にいる”彼”がかろうじて見える。本来は入れない場所なのだが、”彼女”がどこからか鍵を入手してきた。”彼”の為なら何でもする”彼女”らしい。
「あ、あのぉ涼宮さん、やっぱりこういう覗きみたいな事はあんまりよくない気がするんですけど」
私の横にいる朝比奈みくるが不安そうな表情をして”彼女”に話しかけた。
「何言ってんのよ、みくるちゃん。キョンがほら、あんな怪しい動きしてんのよ。気になんないの?」
「そ、それは気にはなりますけど。あの、何となく後ろめたさが…」
「これはね、探偵なの、探偵!それにキョンみたいなヒラ団員があたしに断りもなく怪しい行動するなんて許せないわ」
勢い込んで話す”彼女”の心拍数が上がってる。朝比奈みくると話をして誤魔化しているが、動揺しているものと推測される。その”彼女”の表情を直接観察していると目があった。
「ねえ有希、キョンが何を話してるかわかんない?」
「…わかる」
私の返事を聞いた”彼女”が喜色満面になった。このように喜怒哀楽がはっきりしているのが”彼女”の特徴でもある。
「さっすが、有希。読唇術って奴?」
「違う。でも似たようなもの」
「まぁいいわ。じゃあよろしく頼むわ、有希」
そうこう言ってる間に体育館の横に小さく見える”彼”が話し始めた。私は”彼”の話してる内容を寸分違わずに語った。
「『うーん、ここに呼び出したのは君だったのか』」
「ちょ、ちょっと長門さん、ストップ!」
後ろから小声で私に制止をかけてきたのは古泉一樹だ。何かものすごく焦った顔をしている。
「これ使ってください」
そう言って部室から持ってきたと思われる双眼鏡を渡してきた。しかしこれは私には必要のない物。
「…必要無い」
しかし古泉一樹はよく”彼”にしているように私の耳元に更に近づいて小声で話しかけてきた。
「それはわかってます。でもお願いです、使ってるフリだけでもしてください」
そこで古泉一樹の言っている事を理解した。”彼”の唇の動きを肉眼では確認できない距離を道具無しで見る行為は”彼女”に疑念を抱かせる可能性があるのだった。
「ちょっと古泉くん、有希の邪魔をしちゃダメよ」
「すみません」
そう言って古泉一樹は少し後ろに下がった。私は双眼鏡の大きなレンズの方を目に当てて見ているフリをしつつ”彼”の話している内容を…
「ねえ有希、それ逆だって」
”彼女”が吹き出しそうな笑顔をしている。そうだった、この道具…双眼鏡はこちらの小さいレンズ側を覗くのだ。
「うふふふん♪有希がそんなギャグをするなんて、珍しいモノみたわ」
うかつ…
笑顔だった”彼女”が突然真剣な顔をして私に話しかけてきた。
「あ、ごめん有希、邪魔しちゃった。続きよろしく」
「了解した」
私は返事をして、双眼鏡を覗くしぐさをしつつ”彼”の話している内容を繰り返した。
「『いや、先輩なんて言われたのは久しぶりだな』」
相手の女の子がしゃべっている。でもこちらの方は”彼女”が聞く事を要望していないので繰り返す事はしなかった。”彼”が相手の女の子の質問に答えた。
「『佐々木?あいつはここ、北高じゃないぞ。って知ってるってか』」
私が繰り返したセリフを聞いて”彼女”が不安そうな表情に変わった。そう私は目は双眼鏡を覗いていても、”彼女”の表情を観察する事を忘れてはいない。それが私の任務の一つでもあるからだ。
「もしかして、相手の子はキョンの後輩とか、なのかな?」
独り言のようにつぶやく”彼女”。しかしそれには誰も答えなかった。残りの2人、朝比奈みくると古泉一樹は相手の正体を知っていると推測されるが、その”彼女”の質問に答える事は良くないと判断したのだろう。
この2人はそれを知っていてはいけない事になっているはずだから。
「『いや、別れたのかって…別にあいつと付き合ってた訳じゃないし』」
私が繰り返した”彼”の言葉を聞いた”彼女”の心拍数が上がった。”彼”が佐々木という子をどういう風に思っているのかを”彼女”は気にしていたからだと思われる。だが次に出てきた台詞はそんなのと次元の違う衝撃を”彼女”に与えたらしい。
「『え、だったら俺に付き合ってほしいって。君、本気なのか』」
”彼女”が息を飲んだ。
ちなみにその前の女の子の台詞は、”彼”に対する愛の告白だった。
「『別に彼女がいるわけじゃない。だが、その…』」
”彼”はそう言って絶句したので、その通りに繰り返した。そのセリフを聞いた”彼女”の心拍数は更に上昇し、それに反比例するように顔色が少し青い感じになっている。何を心配しているのだろう、”彼”の心は”彼女”の事で一杯なのに。それは私の入る余地さえない強固なもの。そしてそれを証明するかのように”彼”は話し始めた。
「『ごめん、君の気持ちは嬉しいさ。けど、駄目だ』」
”彼”の台詞を聞いた”彼女”の心拍数が急に通常に下がった。動揺しているのは変わらないが、少し落ち着いたものと推測される。
「『ハルヒか。あいつとはそんな関係じゃない。というか、ハルヒを知ってるのか』」
急に自分の名前が出てきたためか”彼女”の心拍数が再度上昇した。
「『確かに君の言う通り、俺はハルヒに利用されてるだけかもしれない』」
「キョン、そんな事ない!」
”彼”の台詞に反応して叫ぶ”彼女”。でもその叫びはここからは届かないから”彼”が答えるはずはなかった。ところが、まるでそれが聞こえているかのように”彼”は続けた。
「『でも俺はハルヒを必要としてる。君の言う通りある種の片思いなのかもしれない。でもハルヒからいらないと言われるまでは俺はハルヒについていく事にしているんだ。それに二股みたいな真似は俺には出来ない。それはハルヒにも君にも失礼だろ。だから君の気持は受けられない』」
その台詞を聞いた”彼女”は驚愕の表情を浮かべている。そして複雑そうな表情を浮かべて私に話しかけてきた。
「有希…もういい。やめて」
私は”彼”の台詞を繰り返すことをやめた。そして少し考え込んでた”彼女”は私に話しかけてきた。
「あ、でも有希、ちょっとその双眼鏡を貸して」
私は”彼女”に双眼鏡を手渡すと、”彼女”はそれで”彼”のいる方をじーっと見た。
「ふーん、結構可愛い子じゃない。キョン、あんな子たぶらかしてたのね。何て悪い奴なのかしら。部室に戻ってきたらとっちめてやらないといけないわね」
”彼女”は安心したのか心拍数が元に戻っていた。
そう、”彼”と私の監視対象たる”彼女”こと涼宮ハルヒはお互いに恋愛に相当する感情を持っている。だが、お互いに普段はそれを表に出そうとしない。何故なのかは不明。そして今回の事はそれを再確認しただけの事だが、なぜか私の中で渦巻く不明な情報エラーの数々。
これが感情というものなのだろうか。
それとも嫉妬というものなのだろうか。 |
|
|