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まだまだ
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今日はなかなかの遠出でした。
しかし涼宮さんの行動力には驚かされます。
今回のことも朝思いついてそのまま即出発ですから。
昔から突発的な行動をする方でしたが今はそれがプラスに働いているということですね。
今は帰りの電車の中。
さすがに5人まとめて座る場所はなかったので彼と涼宮さん、僕を含めた3人で対面に座っています。
向かい合うタイプの座席ならともかく普通の座席では話すのは難しいですからそれぞれの側で話をしていました。
やれ楽しかった、恥ずかしかった、また行きたい。
長門さんは本に目を落としたままですが朝比奈さんは無邪気にニコニコと話をしてくれます。
彼が癒しだというのも頷けます。
その彼は隣の涼宮さんの相手で大変なようです。
何を話しているか細かくはわかりませんがきっと彼が困るようなことなのでしょう。
いまにもやれやれと言う声が聞こえてきそうです。
一方涼宮さんは本当に楽しそう。
彼がOKするかではなく彼と話すことそのものが楽しいのではないか、そんな風に思います。
無理を言う涼宮さん、たしなめる彼、不満に思いながらまた別の提案をする涼宮さん。
一連の流れはもはや形式、お約束と言うやつでしょう。
二人のじゃれあいを見ていると心が和みます。
「古泉君優しい顔してます」
朝比奈さんも気づいたようだ。長門さんも本から顔を上げ二人を見ています。
「ずっとこうしていられるといいですね」
僕はその声から消しきれない寂しさを感じながらも頷くことしかできません。
いつまでこうしていられるのか僕にはわかりません。下手をすれば敵対組織となる可能性だってあるのだから。
それでも涼宮さんが望む限り僕達はここにいられると信じています。
思考が後ろを向いている、と自覚しながらも止められない。
でも仕方ないかとも思います。この力を持ってからこんなにも幸せなことはなかったから。
「あ…」
朝比奈さんの声で我に返る。
朝比奈さんは二人を見ていました。涼宮さんが舟をこいでいます。
珍しいですね。あの涼宮さんが居眠りとは。
電車が揺れるたびに左右へ揺れる涼宮さん。可愛らしいことです。
ふと朝比奈さんを見るとなんだか歯がゆそうな顔をしていました。
「どうしましたか?」
「だってキョンくんが」
彼は涼宮さんのことなど関係ないという風に窓の外を見ていました。
何がどうしたというのでしょうか。でも答えはすぐにわかりました。
涼宮さんが彼とは逆側のサラリーマン風の男性に寄りかかりそうになっていました。
だんだん、だんだんと男性のほうへ揺れる涼宮さん。彼はまだ気づいていない。
もし涼宮さんが起きたとき、見知らぬ男性に寄りかかっていたとしたらよくないことが起きる気がします。
とっさに席を立とうとした僕ですが、袖を朝比奈さんと長門さんに引っ張られ止められてしまいました。
「あの、お二人とも?」
「見ていてあげてください」「問題ない」
まさに涼宮さんが男性の肩に触れようという瞬間に彼が涼宮さんの肩を抱いて引き寄せました。
寝ぼけ眼で彼を見る涼宮さん。彼は顔を背けたまま何か言いました。
「他人に迷惑をかけるな。仕方ないから俺が犠牲になっておく」
僕には聞こえませんでしたが長門さんが唇を読んでくれました。
言い方は違うかもしれないけれど言ったことは合っているのでしょう。
涼宮さんは「ん…」と彼の肩に寄りかかりました。とても安心した様子で。
彼は顔色一つ変えず「やれやれ」と呟いたようですがそれでもしっかりと涼宮さんの肩を抱き支えていました。
…なんというか、あの無防備さも、素直でない優しさもすべて深い信頼に基づくものなのでしょう。
一枚の絵のような二人。
知らず頬が緩みます。朝比奈さんもそう。
長門さんも表情にはだしませんがきっと同じ気持ちだと思います。
僕達は結局のところ二人の幸せを願ってしまうのでしょうから。
がたんがたんと電車は揺れて、いつしか彼もゆらゆらゆらゆら。
それでも二人は離れない、並んでゆれる二人を見ながらいつまでもこうであって欲しいと心から願います。 |
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