|
proof
|
|
「キョン、明日アンタの誕生日ね。」
「あぁ、そういえばそうだな。」
そう、明日でようやく俺も二十歳になる。なんだかんだでもう20年、いろいろと自分で責任を背負う年齢になっちまうわけだ。
「アンタ、約束覚えてる?」
はて、何の約束だろうか。
「・・・まぁ、アンタが覚えてるとは思ってなかったけど。」
「『キョン、バーに行きましょ!』」
・・・あ。
「思い出した?」
「あー・・・二十歳になれば連れて行ってやるとかいったな、そういえば。」
「そ。というわけで明日はバーに行くわよ!」
「酒はもう飲まないんじゃなかったのか?」
「過去は過去。今は今よ?」
・・・同じ返しを覚えてるとは。しょうがない、約束しちまったもんは守らないとな。
「わかったが、あんまり飲みすぎるなよ。」
介抱するのはどうせ俺なんだからな。
「それぐらいわかってるわよ。」
「そうかい。明日も一限目からだからな、早く寝るぞ。」
「そうね、おやすみ。」
「ああ、おやすみ。」
さて、こうして俺はハルヒを連れてバーに行くことになったんだが。
あぁ、酔っ払ったおっさんの酒の席で聞かされる身内ネタのトリビアぐらいどうでもいい情報だが、俺とハルヒは一応恋人同士、になっている。
アイツの17回目の誕生日にいつものように振り回されて、気がついたら俺から告白していたというプレゼントは俺自身(ちゃんとしたプレゼントも渡したぞ)とかなんとも恥ずかしい結果を期せずして迎えて以来、まぁなんだ、もう4年目になるのか。長いな。
だがしかし、だ。宇宙人、未来人、超能力者並みにいるかどうかわからんが俺たちの関係を邪推する奇特な人に告げよう。俺たちにいわゆる男女の関係はない。もちろん俺だって健全な男子だ。そういう欲求に駆られる事もあった。いい雰囲気になった時だってある。
だがそのいいタイミングでなぜか朝比奈さんや長門、ときたま古泉から電話がかかってくるのはなんでだ。
数少ないチャンスが・・・
っと、口が滑りすぎたようだ。まぁ、今回はハルヒとバーに行ったときの話だ。
どんな一日だったか、今でも鮮明に覚えてる。あんなに忘れられない日はそうはないだろうさ。
さて、今日は俺の誕生日だ。残念なことに金曜日なもので、今日も睡魔を促してくれるありがたい教授様の講義を聞いて一日の大半が終わる。あぁ、これまたどうでもいい情報だが、相変わらず俺はハルヒの前に座を構えている。・・・恋人同士なんだから隣にすわっちゃいけないのかと聞いたら「こっちのが落ち着くのよ」なんていいやがった。おかげでいまだアイツのシャーペン攻撃から逃れることは無い。まぁ、俺がムリにいえば隣に座っても別に怒りはしないんだろうが、「甘えるのは二人だけのときで十分よ」の一言に俺が引き
下がったのは内緒だ。どっちが甘えるか、は想像にお任せするとしよう。
と、どうやら違うことばかり考えていたら今日の講義も終わったようだ。
「ハルヒ、どこか行きたい店とかあるのか?」
バーに行きたい、なんて言い出すぐらいだ。どこか行ってみたい店でもあるんだろう。
「ないわよ。どこか適当なとこ見つけたら入るわよ。」
なんだ、やけに熱心に行きたがってた割には無計画なんだな。
お前のことだからまたとんでもない計画でも立ててるかと思ったが。
「まぁ、たまにはいいじゃない。」
別にかまわんさ。何もない分には文句なんてないからな。
と、いうわけで俺たちはとある隠れ家的なショットバーにきている。
裏道をぶらついていたら何気なしに見つけてしまった。
「へぇ、良い感じのお店じゃない。」
確かに。適当に見つけた割には中に入ってみると予想以上にいいムードが漂う大人な感じのバーだった。
「あたしたちだけ、なんて貸切みたいでいい気分ね。」
他に客もいない。まだ夕方だしな。酒を飲むには少し早過ぎる時間だ。
まぁ、もうちょっとしたらすぐに他の客だって来るだろうし、それまでは貸切気分を味合わせてもらおう。
「まずは、ジントニックあたりかしら?」
そうなのか?
「あっさりしてておいしいのよ。あとそうね、アンタはロングアイランドアイスティーあたりいっときなさい。」
「長ったらしい名前だな。まぁ何でもいいが。」
もう頼んでるし。しかしなんだな、
「・・・お前、飲んだことあるような口ぶりだな?」
禁酒誓ってたのはどこのどいつだったか。いやそれより、
「どうやら俺の言ったことは理解できてもらえてなかったのか。」
はぁー、と思いっきり溜息をつく。心配だから行くな、て言ってたのにな。
「うっ、あ・・・別に約束を破ったわけじゃないのよ?ちょっと自分で作ってみただけで・・・」
確かに懸念してたのはお前があられもない失態を俺以外の誰かに見せることがムカ、もとい、酔っ払いに絡まれて面倒ごとを起こすのを嫌っただけだが。
「・・・なんだ、そこまでして酒が飲みたかったのか。」
「ち、ちがうわよっ!・・・・・・・・・・・・・・・ちょっとアンタに飲ませようとしてその前に味見を・・・」
最後の方がよく聞き取れなかったが・・・
「まぁ、いいさ。お前が無事なら。」
さて、どうやら頼んだものが来たようだ。
俺は随分と久しぶりの酒になるわけだが。
「へぇ、紅茶か。」
備え付けのレモンも加わって、アルコール入りちょっと甘めのレモンティーみたいで飲みやすい。
「うまいな、これ。」
「そ、そう?」
勧めたお前がなぜどもる。さては変なもん勧めたのか?
「そ、そんなことないわよ。」
やれやれ、大方自分で作ったときは不味かったんだろう。プロをなめるなってとこか。
「ま、魂胆が外れて残念だったな。」
とりあえず、今はおいしく酒を頂くとしよう。
その後もハルヒに勧められるまま飲んでいたんだが、もう結構な量いってるんじゃないか?
なに飲んだんだったかな・・・たしか、マルガリータいってブルームーン、チェリーブロッサムだかに、今飲んでるXYZ・・・だったかな。チェリーブロッサムもうまかったが、少し甘ったるくて口直しにちょっと刺激強めのものをハルヒに選んでもらった。
よし、いつぞやみたいに記憶を失うほど飲んでない。まだ大丈夫だ。
しかし、飲みすぎるな、といった俺がこれじゃいかんな。ハルヒが勧めたものはどれも俺の好みに合うもので、思ったよりうまくてついつい勧められるがままに飲んでしまった。
「ハルヒ、もうそろそろやめとけ。」
他の客も徐々にうまってきている。飲みすぎてまた失態をさらすわけにはいかない。
アイツはアイツで俺に勧めながらも結構な量を飲んでるし、特に最後のほうなんてなんでかペースアップしてるしな。
「うるさいわね。」
・・・なんでそんなに不機嫌なんだ。
「アンタ、まだ酔ってないでしょ。」
まぁまだ大丈夫だと思うが。
「せっかく酔わせようと強いお酒勧めたのに。これじゃ意味ないじゃない!」
「二人して酔うわけにもいかないだろ。というかお前、俺を酔わそうとしたのか。」
「・・・ふんっ。」
俺を酔わせようと、ね。昔なら俺の酔っ払った醜態をみて爆笑しようと考えることもあったろうが、流石に今はもうそっちはないだろう。仮にも恋人同士だし。
「お前なぁ、俺が酔えばお前も好きなだけ飲めるとでも思ってたのか?」
「・・・・・・アンタ、本気でいってる?」
なにがだ。
「・・・ハァ・・・」
なんだその心底がっかりした表情は。
「もういいわ。アンタはそういうやつだって分かってるし。」
だからなんなんだ一体。酒が飲みたかったんじゃなかったのか?
「ただ飲みたいだけなら自分で作るわよ。」
む、そういえばそうか。実際自分で作ったって言ってたしな。
「アンタと飲んで、アンタを酔わすことに意味があるんじゃない。」
・・・なんだ、おい。お前もしかして。
「ようやくわかった?」
「俺の酔っ払った醜態をみて笑うつもりか。」
痛い。ハルヒの視線が痛い。これまで見たことが無いぐらい睨んでる。
本能で動く動物なら確実に近づけないオーラだ。猫ぐらいなら殺せるんじゃないか?
どうやら俺のいったことは見事に大ハズレのようだ。
ハズレてうれしいんだが、この視線はきつい。
「・・・・・・あきれた・・・・・・」
と、睨み疲れたのかハルヒはものすごい溜息をついてまた違う酒を注文していた。
とめられる雰囲気じゃない・・・のは俺のせいか。
やれやれ、せめて俺ぐらいは酔わないように止めておくか。
若干気まずい雰囲気のまま、俺とハルヒは、正確にはハルヒだけだが、酒を飲んでいた。
この雰囲気をどうすることもできない俺を見かねたのか、ハルヒはゆっくりと、それこそ一言一句言い聞かせるように、口を開いた。
「ねぇキョン」
なんだ。
「アタシがなんでバーに行こう、なんて誘ったかなんて考えたことある?」
いや。・・・まぁ禁酒を誓ってたからな、変だとは思ったが。
「アタシはね、別にお酒を飲みたかったわけじゃないのよ。」
・・・そうだな、それはさっきも言ってたな。
「アタシ達、付き合ってもう4年目よね。」
・・・あぁ。
「ずっと一緒にいたわよね。」
あぁ。
「アタシはね、このままでもいいかな、って思ってたの。キョンが居てくれれば、って。」
「アンタはやさしくて、そばに居てくれて、ずっとアタシを満たしてくれてた。」
「でもね、やっぱり不安だった。アンタがいつかアタシの前からいなくなるんじゃないかって。」
別れるつもりなんてさらさらないが。
「分かんないわよ。アンタ律儀なんだから、無理矢理迫られて『責任取れ』っていわれたら行っちゃいそうじゃない。」
「だからね、証が欲しかったの。アンタはアタシのモノ。アタシはアンタのモノだっていう証が。」
「アタシは我侭なのよ。もっとキョンのそばに居たい。キョンにもっと愛されたい。・・・でもムリに迫って嫌われたらどうしよう。ってね。」
普段の行動は・・・いや、それとこれは別問題か。大事な一線を越えるかどうか、だしな。
「だから、アンタから求めてくれれば万事解決じゃない?」
なんでそうなる。・・・いや、確かにそうか。一方通行じゃないことに意味があるんだ。
「でもアンタは一度も手を出してこなかった。もう4年よ?せっかくいいムードになっても、有希やみくるちゃんから電話かかってきてハイおしまい―なんてホントにアンタ男なの?とかも思ったわ。」
失礼だな、俺だって我慢してたんだが。
「だから、普通じゃムリなら、酔った勢いでどうにかなるかなって。」
そこで酒か。というか酔った勢いで、なんて不本意じゃないのか。
「そりゃ不本意に決まってるじゃない。でも、なりふり構ってられないわ。」
・・・そうか。すまん。
「別にアンタが謝ることじゃないわ。アタシの一人相撲だっただけよ。」
そこまで話すと、ハルヒは少し寂しそうな笑顔を作った。
初めて見た、あいつがわざわざ笑顔を「作る」なんてのは。
ハルヒが意を決して告白してくれたんだ。俺もそれに応えなきゃならんだろ。
いや、別にこれから起こす行動は予定外でもなんでもないんだがな。
「・・・ハルヒ。」
「俺な、ひとつだけずっと気になってた言葉があるんだ。」
「なによ。」
「『一時の気の迷いで面倒ごとを背負い込むほどバカじゃない』」
「え・・・」
「覚えてるか、お前の言った言葉だ。」
「俺の曲解なのかもしれんが、つまるところ面倒ごとを全部背負い込む覚悟があれば、お前も応えてくれるんじゃないかって思ってた。」
ハルヒを見る。じっと、一言も逃さないぐらい真剣な表情で聞いてくれている。
冗談で終わらすつもりなんてないからな、ちゃんと聞いとけよ。
「だから、ってわけでもないが、俺は一歩踏み出すことに戸惑ってたんだ。」
「いいムードだったときも、我慢してはいたがどこかホッとしてた部分もあった。まだこのままでもいいのか、ってな。」
「あぁ、言っとくが邪魔が入らなかったら入らなかったで責任は取るつもりだったぞ。」
「けどまぁ先送りにしてたってことは、結局、一生かけて面倒ごとを背負い込む覚悟がまだ俺にはなかったんだ。」
そこで俺は大きく深呼吸して、自分を落ち着かせた。
ここで噛んだりしたら、情けないにもほどがあるからな。
「今日な、俺の誕生日だろ?」
「・・・そうね。」
「二十歳になった、てことはいろいろ自分で責任を負わなきゃならんわけだ。」
「そうね。」
「まだ親に世話になってる身でなんだが、自分の行動の責任はとる。」
さて、一番大事な言葉だ。
「ハルヒ。お前が欲しい。」
さて、その後どうなったかって?あんまり話したくないんだが、ちょっとだけ話してみようか。
あのあとハルヒは「調子に乗るんじゃないわよ、エロキョン!」と怒鳴って自分の飲んでいた酒を俺にぶちまけてカンカンに怒って出て行っちまった。呆然と立ち尽くす俺、哀れみの視線を送る他の客。そっと慰めてくれるバーテンダー。俺は最悪の誕生日を送ることになった。
なんてのはうそぴょんで。
俺とハルヒはようやく結ばれることになった。まぁ、あまり詳しくは聞かないでくれるとありがたい。口にするとそれだけ軽い扱いになっちまいそうだからな。
あれは俺とハルヒの大事な思い出だ。
なぁ、ハルヒ。あの時お前言ったよな。「証が欲しい。アンタはアタシのモノ。アタシはアンタのモノだっていう証が。」って。
お前の左手の薬指に光る指輪は、その証になってるか?
【了】 |
|
ちなみにproofは英語圏で「アルコール度数」のことらしい。
せっかくなので普通の単語の意味の「証」で締めてみた。 |
|
|
|
|
ハルヒ「キョン!バーに行きましょ!」
キョン「却下だ。一回前にお前酔っ払ってお酒は飲まないって言ったんじゃないのか?」
ハルヒ「過去は過去。今は今よ。とりあえず行きましょ」
キョン「やっぱりダメだ。バーってものは行った事が無いからよく解らんが、
お酒が出てくるところだ。酔っ払いがお前に絡んでくるかもしれん。
なんだかんだ言ってお前は綺麗だからな。もしお前が絡まれて面倒なことになって
警察沙汰にでもなってみろ。俺たち、いや、お前はどうなる?
きっと後悔するぞ。
それに俺はお前が危険な目に少しでもあわせたくないから事前に回避できることは
回避するようにしているんだ。俺の言うことを理解してくれ。
・・・わかったか?
どうしてもって言うのなら20歳まで待ってくれ。俺が連れて行ってあげるからな。」
ハルヒ「・・・・・・キョン・・・わかった。あたし行かない。
キョンに心配かけさせるなんて団長失格だわ。
それと今回みたいにあたしが時々ヘマするかもしれないから
キョンは一生あたしを監視していなさい!!」
キョン「やれやれ・・・わかったぜ。困った団長様だ」
|
|
|
|