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ハルヒの悩み
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少し暑い朝のことだった。
あたしはいつものようにキョンが来る前に学校に来て座って窓の外へ視線を向けていた。
そんないつもどおりの朝のことだった。
「…えーでも涼宮さんいつも否定……だからきっと…」
「いや…○○くんと…って。だから……なってば。…てなくても…きっと…」
「でもー…」
そんな会話が耳に入ってきた。
声のするほうへ目を向けると、さっきから向こうの3~4人の塊の女子が
あたしの方をちらちら見ながら話してる。
しかもあたしとキョンの名前が聞こえてきてた。
あまりこういうのは気分がよくない。
「ねぇ。あたしに用があるんだったらそっちで話してないで、ちゃんと言いなさいよ。
あまり気分が良くないわよ、それ。」
向こうに聞こえるような声で言う。
だけど、あまりバカにされてるような感じは無かったから、敵意は出さない。
「ほら…いい機会じゃない。ちゃんと聞いてきなさいよ。」
「うん…。」
一人の女子がおずおずとあたしの方へ歩いてくる。
何なんだろう。うつむきながら、少し恥ずかしそうに頬が赤くなってる。
「あのね涼宮さん…一つ聞いてもいい?」
「なに?」
「えっと…あのね?涼宮さんって、○○くんと付き合ってるの?
すごく仲が良いのは知ってるんだけど、いつも涼宮さんは否定してるじゃない?
でも実は…なんてことない?本当のことを知りたいの。」
正直想像していない方向からの質問だった。
「…どうしてそんなことを聞くの?」
「その…私○○くんの事が好きなの。だから、もし付き合ってるなら邪魔になるじゃない?
だから…」
少し衝撃が走った。
この子はあのキョンの事が好きだという。
よく見てみれば可愛い子だ。胸もどちらかといえばある方だろう。
いいえ、あたしより少しだけ小さいくらい。もしかすると同じくらいかもしれない。
しかも、どこかみくるちゃんに近いような雰囲気も持っている。
とても可愛い女の子。
そして、悪いことは重なるというが、本当らしい。
この子の髪型は ポ ニ ー テ ー ル だ。
確かこの子はキョンと同じ中学だ。
国木田は確かキョンがポニー好きって知ってた。
同じ様にこの子も知ってるのだろう。そしてこの子はそうした。
似合っていた。健気な子なんだろう。
そんな子がキョンを好きだと言った。
まずい。けど、そんなことは言えないし、顔にも出さない。
「…へぇ。なるほどね。
安心なさい。私はキョンと付き合ってないわ。」
安心できないのはこっちの方。
「よかった!ほら、やっぱり付き合ってないんだ。
ごめんね朝から変なこと聞いて。」
「いいわ。気にしてないから。」
正直違う意味で激しく気になる。
動揺を悟られて無いだろうか?
この子は恐らく気付いていないだろう。しかし、さっきまで居た2人の女子は?
あたしは誤魔化すように窓の外へ視線を戻す。
その悪い予感が当たったかのように、2人のうちの1人が歩いて近づいてくる。
「落ち着きなさいよ、もう。付き合ってないのが分かっただけでしょ?
それから、涼宮さん。私からも一つだけ聞いていい…?」
「今度は何?」
「涼宮さんは彼のこと――」
そこまで言ったところで教室のドアが開いた。
キョンだ。
あたしの方を見て少し驚いている。
何せあたしの席の周りに女子が集まっているのだ。
このあたしの席に。
珍しい光景だったのだろう。変な顔をして立ちすくんでいる。
マヌケ面。
「ごめんなさい、涼宮さん。最後のこと何でもないから忘れてね。」
「いいわよ。」
そう言って離れていく3人。
正直安心した。
さっき聞かれるであろう事は容易に想像できる。
あたしは恐らく今度こそ顔に出ただろう。
キョンに心の中で感謝する。
キョンが座ってあたしの方を見る。
「よぅ、ハルヒ。珍しいな。お前が他の女子と話してるなんて。」
「別にあたしがあの子達に話があったわけじゃないわ。」
「じゃああっちがお前に話があったのか?」
何よキョンの奴。いつも鈍いくせにこんなときだけ妙に鋭い。
「なんでもないわ。忘れなさい。」
そう言って窓の外へ目を向ける。
「そうかい。」
そこへ丁度岡部も入ってきた。
キョンは前を向く。
それから昼食の時間になったが、その間会話は無かった。
いつものように学食で昼食を食べていると、朝のあの3人が近づいてきた。
「一緒にいい?」
「いいわよ。」
まだ話があるようだ。
もじもじと言おうと顔を少し上げて、すぐにしゅんと頭を下げる。
分かっていながらあたしからは何も言わない。
「あのね、涼宮さん。今日告白を彼にしようと思うの。」
「そう。それで何でそれをあたしに言うの?」
「その…彼、いつもSOS団だったよね?その部室に言ってるから…
確か涼宮さんそこの代表みたいな人だよね?だから今日彼に休むことを許して欲しいの。」
「いいわよ。わかった。」
「ありがとう!」
あたしは正直に言って焦った。
恐らくこの子はキョンの好みのど真ん中だ。
中学が同じということで、この子が良い子だってことも多分知ってるだろう。
中学の頃は佐々木さんと仲が良かったみたいだけど、面識はあるはずだ。
もしキョンがこの子の告白を受けたら?
もしかしてSOS団に来なくなるかもしれない。
いいえ、それ以前にキョンとこの子が付き合うなんて嫌。
あたしもキョンの事が…。
あっという間に放課後になった。
「なぁ、ハルヒ。今日なんだが団活休んでいいか?」
「どうして?」
「んー…詳しくは言えないが頼む。これっきりだ。」
「…罰ゲームのことは覚悟してるんでしょうね?」
「あぁ、重々承知してる。」
「いいわよ。たまには休みも必要だろうから。
その代わりすんごい罰ゲーム考えとくんだから。覚悟してなさいよね。」
そこまで言ってあたしは部室へ向かう。
恐らくもう呼び出されてるのだろう。
キョンも少し動揺してるみたい。
さっき呼ばれたのかな。
考えてるうちに部室へ着いた。みくるちゃんもユキも古泉君ももう着いていた。
お茶をみくるちゃんから貰っていつものようにパソコンでネットを見る。
……落ち着かない。
キョンはどう返事をするのだろう。考えてたらキリがない。
みんなには悪いけど、その日は休みにした。
あたしは家に帰ってずっと沈んでた。キョンのことしか考えられない。
電話してみようか。でももし受け入れて2人で居たら。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。とにかく明日を待とう。
明日になればきっと何かわかる。きっと……
だけど、夕飯を食べたあとに電話があった。キョンだ。
『もしもし、ハルヒか?』
『何?なにか面白いことでも発見したの?』
『いや、今日の放課後のことなんだが…すまん。大した用じゃなくてな。
話が終わってすぐにSOS団に行ったんだが、休みにしたって言うじゃないか。
具合でも悪いのか?』
『大したことじゃないって…あんたあの子は…』
『あの子?…ハルヒお前知ってたのか?』
『……………………。』
『……断ったよ。』
『え?』
『だから断ったって。何度も言わせるなよ、まったく…。』
『そ、そう…。でもあんたのタイプじゃない?あの子。すごく可愛かったじゃない。』
『確かに可愛いが…あの子じゃダメだ。』
『じゃあ、誰だと良いっていうn『キョンくんハサミー。それとご飯だよー。』
…………………。
妹ちゃん…もう少し空気を読んで欲しいわ…。
『…ということですまん。ハルヒ、また明日な。』
『…うん。』
何だろう。とてもほっとした。良かった、と心底そう思う。
でも…あの子じゃダメだって…じゃあ誰なら良いのよバカキョン…。
もう!折角断ったって分かったのに結局考えるばかりだ。
本当にバカキョンなんだから…。
そして、次の日。
キョンが来るまで窓の外をずっと見ていた。やがてキョンがやってきた。
「ねぇキョン… |
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ハルヒ「あんたって好きな人に告白する方?それとも告白されるまで
待っている方?」
キョン「なんだいきなり?変な質問をしてくるなぁ。
ん~、俺も一応男だし好きな人にはちゃんと告白するぜ」
ハルヒ「じゃぁ、キョンには好きな人はいるの?正直に答えなさい!」
キョン「好きかどうかは解らないが、一人気になる奴はいる。
ちゃんと俺の気持ちの整理がついたら俺の思いを告げるから
それまで待ってくれないかハルヒ?」
ハルヒ「えっ・・・あ・・・う、うん」
教室中が俺たちの方を見て、
女子はキャーキャー言っているがハルヒがまた変なことをしたのだろう。
その日、ハルヒはなんだかそわそわしていて俺と目が合うと顔を真っ赤にして
目を逸らしてしまう。それが一週間ほど続いた。
終いにはハルヒが俺を引っ張って文芸室に連れて行き、
早く言いなさいよ!!と怒鳴ってくる。
やれやれこいつは何を考えているのか解らないぜ。 |
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