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彼の決意
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今部室には僕と涼宮さん、長門さんがいます。彼は教室の掃除で遅れるとの事。朝比奈さんは今日は用事で来れないそうです。
「ねぇ古泉君」
「なんでしょうか?」
「なんかさー、最近キョンってなにかあったの?」
これはどういった意味でしょうか。とりあえず聞いてみますか。
「それはどういった意味でしょうか。
僕には特にそのようには見えませんが…」
「うーん、あたしも上手く言えないんだけど、なんか前とは違うのよね。
そうね、変わったのは確か冬にあいつが階段から落ちてからね。
少しだけど前よりSOS団に近づこうとしてる、そんな気がするのよ。
もちろん悪い事じゃないからそこまで気にする事でもないんだろうけどね。
でも古泉君がそう言うって事は、やっぱりあたしの思い過ごしなのかなぁ」
とんでもない。流石涼宮さんとおっしゃるべきでしょうね。
彼はあの時SOS団を一度失っています。僕はその出来事は自覚していません。ただ彼の口から聞いただけです。
淡々と語ってくれましたが、隠しきれない感情が漏れていました。
そして最後にこう閉めていました。
「もう……あんな思いはたくさんだ。
それを防ぐためなら、俺は喜んであいつのブレーキ役でもなんでもなってやるさ。
どうせ俺しか出来ないんだからな」
「もしかしたら、入院してる時にSOS団がなくなる悪夢でも見たのかもしれませんね」
と、そこに彼が入って来ました。
「何話してたんだ?まさか古泉とまた何か悪巧みでもしてたんじゃないだろうな」
「またって何よ、あたしがいつ悪巧みをしたってわけ?」
「自覚してないのか、そいつは重症だ」
などと、いつものやり取りが少し続いた後、涼宮さんがとんでもない事を言い出しました。
「ねぇキョン」
「なんだよ、用件は手短にな」
「もし、あたしがいなくなったらどうする?」
……!僕も驚きましたが、彼はそれ以上だったようです。
あの少々斜に構えた発言が帰って来ません。
「ちょっと聞いてる?あたしがいなくなったら……」
「ハルヒ……」
と言うと、彼は涼宮さんに近づきます。そして彼女の両肩に手を乗せました。
「ちょ、ちょっと、何を…」
「ハルヒ……嘘でも冗談だろうとそういう事は言うな。
そんなのは考えるだけ時間の無駄だ」
「ど、どうしたのよ、急に真面目になって……」
「お願いだ、本当にそういう事は言わないでくれ…」
「…うん、分かった、その……ゴメン」
彼女が気付いていたかどうかわかりません。おそらく気付いてないでしょう。
ですが僕は気付きました。
……ごく僅かでしたが、彼の声が震えていました。
いつも通り学校に行ったら自分を殺そうとした人がいて、さらに涼宮さんがいなく、朝比奈さん達は自分の事を知らない。
そんな恐ろしい出来事を彼は体験したのです。
僕でもおかしくなってしまうかもしれません。
ましてや、二度と体験したくはないでしょう。
「そうか……ならいいさ。
それと、さっきの質問だけどな、一度しか言わないからよく聞いとけ。
……必ず見つけて連れ戻すさ。地球の裏側だろうが宇宙の果てだろうがな。
それが誰の意思であっても、お前の意思でも関係ない。
正しかろうが間違ってようが知った事か。
どんな手段を使ってでも、お前が嫌がっても引きずってでも連れ戻すさ」
「……どうして?」
「そうだな……」
彼の雰囲気がいつものそれに戻りました。
「お前なら外国人だろうが宇宙人だろうがこき使いかねんからな。
第二の朝比奈さんや俺を作るわけにはいかんだろう。
それは相手が余りにも不憫すぎる。
それが原因で宇宙人と戦争になったら目もあてられない」
「……ふーん、そう。よく分かったわ」
涼宮さんは口調こそ怒っていましたが、僕の目には嬉しさと恥ずかしさが絶妙にブレンドされた笑顔が写っています。
「とりあえず、団長に生意気な口を聞くその根性を叩き直して上げるわ!」
「ちょ、ちょっと待て、こんな所で暴れたら長門に迷惑……っていねぇ!」
「ついさっきコンピ研の所に行ったみたいですよぅ。
あ、あの、用事がなくなったから来てみたんですけど、お邪魔みたいですね。
失礼しましたぁ」
「あぁ、朝比奈さん!
こ、古泉……」
「僕はトイレに行ってきます。少々長くなるのでどうぞごゆっくり」
「こら待て古泉ー!」
全く、本当に仲の良い事ですね。
……羨ましいですよ。 |
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