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幸運な日
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実に気持ちのいい朝だ。
この強制ハイキングコースをこんなに気分良く登る日が来るとは思ってもみなかったね。
なんでそんなに上機嫌なのかって? 占いだ、占い。偶々みていた朝のニュース番組で、今日の運勢──金運、恋愛運、健康運──が最高だったのだよ。
俺は元々この手の物は信じない質なのだか、今日は違う。
なんと、ここに来るまでの道のりで五百円玉を拾ったのだ! それも二枚!
もう天にも昇らんばかりの気分だ。最高。思わず顔がにやけちまうよな。
「よう、キョン」誰かと思えば谷口じゃないか。
「谷口か、おはようさん」
「げっ! なんだお前、その顔……なんか良い事でもあったのか?」
「まあな」
「そりゃなによりだな。まあ、お前が上機嫌な理由なんてどうでもいい。それより、キョン。俺は発見したんだ」
お前の確実に成功するナンパの方法なんか知りたくもねえよ。と、言いたいところだが、今日は別だ。
しっかりと聞いてやろう。記憶するかどうかも別だがな。
そんな谷口の話を聞きながら歩くと、あっという間に教室の前。
扉に手を掛けて開くと……明らかに教室の様子が変だ。
なんだ、この負のオーラ。静まり返ってる……。
「お、おい、あれ見ろよ」
見なくとも解るさ、教室中をこんな状態に出来る奴は1人しか居ない。涼宮ハルヒ。その人だ。
「なんだ、えらく不機嫌だな」
「腐海の森だ。頼むぜキョン」
谷口はそう言いうと、手で口を押さえながら自分の席に向かった。
なに馬鹿な事言ってんだ。俺は風の谷のナントカじゃねえぞ。
今日は最悪。こんな憂鬱な日は久しぶり。
理由? まず第一に占い。結果は最悪の最下位。
あたし、あんまり信じるタイプじゃなんだけどね。
それだけじゃないわ。今日は寝坊しちゃったから、遅れを取り戻すために急いで家を出たのよ。
そしたら財布を忘れた事に気付いたの。超特急で家に戻ったけど既に親が出掛けてて、もう鍵が掛かってた。もちろん鍵は財布の中にあるってわけね。
他にも色々あるけど、多すぎてめんどくさいから端折らせてもらうわ。
そんな訳で占いの結果じゃないけど、今日の運勢は最悪なのよ。
「ようハルヒ。おはよう」キョンが来たみたい。
今更だけどあんなに急ぐ必要なかったわよね。案の定この鈍キョンよりも早く学校に着いたんだもの。
そう考えるとなんかムカつくわ。睨め付けてやろうかしら……って……なによ……その顔。
「ん、おはよ」
普通だったらこんな気分の日は無視するわよ? でも、キョンのあんな笑顔を……。
「どうした?」
「……別に」
あたしはキョンの顔を見てると何故か恥ずかしくなり、そっぽを向いた。なんでかしらね、ホント。
この日、キョンはおかしかった。
てっきり古泉くんの真似でもしてるのかと思えば「アホ、そんなバカな事するか」と、しっかり文句を言ってくる。
それに、「こうした方が良いんじゃないか?」なんてあたしの考えに意見するのよ。信じられる?
コレも普通だったら『却下!』の一言で済ますんだけど、結構当を得てるのよ。
あたしの話をしっかり聞いて、理解した上で助言してくれてるかのようにね。
決め手はこれ──団活が終わった後の帰り道──キョンとの会話。
「なあハルヒ。これから暇か?」
「へ?」思わずこんな間抜けな声が出た。
「まあ、暇だけど……どうして?」
鍵がないから家に入れない。親もまだ帰ってきてないだろうし、どっかで暇つぶししなきゃね。
「いつもの喫茶店に行かないか?」
「……ふーん。別にいいけど、あんたの──」
「俺が奢るよ。ちょっとした臨時収入もあったからな」分かってるよ。とでもいいたげな顔で言う。
「急にどうしたってのよ?」キョンから誘ってくるなんてビックリよ。
「わからん。何でだろうな?」
なにそれ……。バカじゃないの? あたしが知るわけないでしょ。
「そうだな。ただ、今日はお前ともっと喋りたいなーと。そんな気分なんだよ──」
──キョンは、何時か見たような優しい笑顔を浮かべてそう言った。
うん、決定。
今日の占いはハズレみたいね。 |
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