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ヨイコク
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「うにゃー」
「!?」
布団に衝撃。何か重いものが乗っかってきた。
寝ていた俺を起こしたのは猫……ではなくハルヒだった。猫科っぽいけどな。
「こんな夜中にどうし……お前酔ってるのか?」
「なによぅわるいー?っていうかあんたれるのはやすぎー」
「飲んでるのか」
「べっつにいいれしょー、あ、れもおんなろころうしらったから安心しなさい」
にへらと笑うハルヒ。何を安心しろというのか。だったら俺の安眠妨害について責任を取って欲しいもんだ。
昨日は大学のレポートで徹夜したから今日は早く寝るつもりだったんだよ。
時計を見ると11時半。二十歳の女性が一人歩きするには危険な時間になってくる。
「はぁ、わかったよ。今日は泊まってけ」
「いいの?やたー」
万歳して喜ぶハルヒ。酔っているせいかいつもよりだいぶ子どもっぽい。
大学に入って一人暮らしを始めた俺だったが大学に近いせいかハルヒがこうしてやってくることが少なくなかった。
一度許してしまえば後はなし崩し的にダラダラと居座りそのまま泊まることもあった。
一人暮らしの男のところに泊まるなんてどうかしてるとしか思えなかったが高校時代を考えればハルヒらしいともいえる。
なので悪ささえしなければと言う条件で泊めてやる、そんな関係だった。
まあ翌日に作ってくれる朝食がコンビニ飯よりはるかにうまいと言うのも理由の一つではある。
「待ってろ、今布団敷いてやるから」
「ん、いい。ここで寝る」
そう言って俺の布団にもぐりこんできた。
「お、おい」
「あに?もしかしてこーふんしてるの?」
「……違う。服がしわになるし、なにより酒臭いんだよ」
「あによそれ」
不満げにいいながら俺に抱きついてくる。
「あったかい」
それは外が寒かったことに対する比較に過ぎないとは思うもののいろいろ考えてしまうのは男子として当然のことだろう。
「……きょうね、あんたのこときかれたの」
酔っ払いの寝言だ。話半分に聞き流す。
「あんまり『付き合ってるんれしょ?』とかうるさいから、付き合ってるって言っちゃった」
「な……」
「そしたら『やっぱり』とか『お似合い』とか言われたの」
「……それで?」
「はじめはからかわれるって思ったからムカついたんらけろ、なんからんらんうれしくなってたの」
ふらふら、ふわふわとハルヒは歌う。なぜなのか、俺にもわからない。
「あたしらってわかんないわよ。けど……あんたならいいかなって、ずっとこうしてるのも悪くないなって」
俺の胸に顔をうずめるハルヒ。俺まで酔いがうつったのかもしれない。
「そうだな。それも悪くない。こうしてるのが嬉しいってことは、たぶん俺はお前が好きなんだろう」
「………………ふぇ?え、えと、今なんていったの?もーいっかい聞かせて」
「お前が好きだから付き合ってくれって言ったんだ」
ぐしゃぐしゃと頭を撫でる。それでもなきゃいままで互いに恋人も作らずに一緒にいるなんてことに説明がつかない。
「ほ、ほんとに!?いいの!?その、恋人で」
「いいって言ってるだろ。っていうかそう聞いたのは俺だぞ」
「う、わ、な、なんかかお熱い。……ばか、ばか。なんとかしなさいよ、ばかぁ」
ハルヒはバカバカ言いながら俺に体を預け寝てしまった。
「よお、おはよう。水おいとくぞ」
「ううう、うん。ありがと。………………うわ、バカみたい」
「なにがだ。起きてそうそう人をバカ呼ばわりか」
「……違うわよ。あたしがバカみたいって言ったの。あー変な夢」
「ほう、なんだ?布団の中で俺に告白される夢でも見たか?」
ハルヒがピタリ止まって、キリキリと機械のように俺のほうを見る。
「夢でいいならかまわんがな、本当にしたけりゃ一つ条件がある」
ハルヒはじっと俺を見ている。一言も聞き漏らすまいと必死な顔だった。
「俺からは言ったんだ。お前の返事を聞かせてくれ。お前その前に寝ちまったんだからな」
その日の朝食はかつてないほど豪勢なものだった。 |
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