haruhi-ss 俺的ベスト(おれべす)

1. 10年越しの手紙
2. 1日遅れのひな祭り
3. 25
4. 25年前の七夕
5. B級ドラマ~涼宮ハルヒの別れ~
6. DoublePlay
7. for Heroines, Kyon losing filters (AA)
8. Girl's Day 
9. HARUHI!
10. I believe…
11. imouto
12. Legend of Necktie
13. Lost my music
14. MASAYUME
15. Petit-haruhi
16. proof
17. Special Window
18. あ~ん
19. あたし以外の
20. ある『幸せ家族』
21. ある雨の日のハイテンションユッキー
22. ある女子高校生の二ヶ月間の乙女日記
23. イチバンニアナタヘ
24. ウソとホントの狭間で
25. お互いの気持ち
26. お前がいるから
27. お悩みハルヒ
28. カエルのたましい
29. カチューシャ
30. ぎゅ
31. キョン1/2
32. キョンがアンケートから情緒不安定になりました
33. キョンとハルヒの事実婚生活
34. キョンならOK
35. キョンにとって
36. キョンのベタ告白
37. キョンの弁当
38. キョンの誘惑
39. キョンの涙
40. キョンは死なない
41. ご褒美ごっこ
42. ジュニア
43. ジョン・スミスの消失
44. スッキリおさめる
45. それから
46. それは誤解で勘違い
47. ただの人間
48. ダブルブッキング
49. ツンデレの気持ち
50. どうして
51. ねこねこ
52. ばーすでぃ
53. はい、メガネon
54. パパは高校1年生
55. ハルキョンズカクテル
56. ハルキョンのグダデレ
57. はるひ の のしかかる こうげき!
58. はるひすいっち
59. ハルヒとバーに
60. ハルヒと長門の呼称
61. ハルヒの悩み
62. ハルヒは俺の──
63. ファーストキスは誰のもの?
64. ふっくらふかふか
65. フラクラ
66. フリだけじゃ嫌!
67. まだまだ
68. ミヨキチが長門とキョンの娘だったら…?
69. モノマネ
70. やきもち
71. やれやれ
72. ヨイコク
73. リスペクト・ザ・ハイテンションユッキー
74. 悪夢を食べる聖獣
75. 雨宿り
76. 花嫁消失
77. 覚めざらましを
78. 完璧なポニーテール
79. 許婚と最愛の人
80. 距離
81. 教科書と嫉妬
82. 迎えに行くから
83. 結婚記念日の怪
84. 月で挙式を
85. 月と徒花
86. 犬も食わない
87. 古泉の陰謀
88. 古泉一樹の親友
89. 孤島(原作版)にて
90. 幸せの連鎖
91. 幸運な日
92. 佐々木IN北高
93. 思い出はおっくせんまん
94. 射手座の日、再び
95. 習慣化
96. 充電
97. 女、時々酒乱につき
98. 女の子
99. 小さな来訪者
100. 小春日和
101. 少女の願い
102. 消失if else
103. 笑顔の花嫁
104. 心配
105. 新春到来
106. 酔いどれクリスマス
107. 生き物ってつらいわね  
108. 醒めない夢
109. 宣戦布告?
110. 前日の酔っぱらい
111. 素直になれなくて
112. 素敵な旦那様の見つけ方
113. 谷口のミニ同窓会
114. 谷目
115. 暖かな2人
116. 朝比奈みくる、十七歳です。
117. 朝比奈みくるの最後の挨拶
118. 長門さんとミヨキチ
119. 長門さんと花
120. 長門有希さんの暴走
121. 長門有希の嫉妬
122. 長門有希の憂鬱
123. 通行人・涼宮ハルヒ
124. 冬のあっため方 
125. 動揺作戦
126. 二度目の消失日
127. 日記と六月の第三日曜日
128. 濡れ衣だなんて言えない
129. 猫は同じ夢を見るか
130. 彼の決意
131. 不思議戦隊SOS
132. 普通の日
133. 報復の仕方
134. 北高生人気投票
135. 未来からの電話
136. 無題(Disappearance of Yuki Nagato)
137. 無題(テクニシャン)
138. 無題(ハルヒ以外の……女には…興味がねえ!!)
139. 無題(ホスト部)
140. 無題(今日は春休み初日…)
141. 無題(暑いからくっ付けない)
142. 無題(席順)
143. 無題(湯飲み)
144. 無題(閉鎖空間)
145. 無題(別視点からはバカップル)
146. 遊園地は戦場と心得よ
147. 様
148. 裸
149. 涼宮さんとキョン子さん
150. 涼宮ハルヒと生徒会
151. 涼宮ハルヒの影響
152. 涼宮ハルヒの改竄
153. 涼宮ハルヒの軌跡
154. 涼宮ハルヒの疑惑
155. 涼宮ハルヒの強奪
156. 涼宮ハルヒの決心
157. 涼宮ハルヒの結末
158. 涼宮ハルヒの催眠術
159. 涼宮ハルヒの終焉
160. 涼宮ハルヒの出産
161. 涼宮ハルヒの正夢
162. 涼宮ハルヒの喪失 
163. 涼宮ハルヒの泥酔
164. 涼宮ハルヒの転換
165. 涼宮ハルヒの糖影
166. 涼宮ハルヒの独白
167. 涼宮ハルヒの微笑
168. 涼宮ハルヒの邁進
169. 驟雨

パパは高校1年生


……誰か。助けてくれ。一体何なんだコレは。


「ねぇ、パパ。どうしたの?」
「だから、パパじゃない!」


俺にへばり付いてくるこの幼女は一体何なのか。そこから説明するとしよう。



そう、いつも通りだった。いつものように朝起きて学校行って後ろにはアイツがいて。
放課後、いつものように部室に行って。…そこで事件は起こったんだ。


いつものように軽くノック。…返事が無い。

「珍しいな。朝比奈さんがいないとは。掃除か何かかな」

独り言を呟きながら団長席に座り、PCを起動する。
いつものようにハルヒが来るまで、軽くネットサーフィンだ。
誰もいないし、ついでにMIKURUフォルダでも鑑賞しよう。

ガタッ!

「ぬおっ!」

慌ててMIKURUフォルダを閉じる。そして後ろを振り返る。
…よかった。誰もいない。これが見られたら自殺物だ。危ない危ない。

ガタタッ!

音がするのはどうやら掃除箱からみたいだ。…なんか既視感。
朝比奈さんもいないしな。また面倒事に巻き込まれなきゃいいんだが。


掃除箱の蓋を開ける。

「またですか?朝比奈さん。今度は一体…」

俺の言葉が止まる。

そこにいたのは、どこかで見たことのあるような幼女だった。


「あっ!パパ!待っててくれたのね!」

…はい?パパ?何を言ってるんだこの子は。
まだ16の身空でこんな大きい子のお父さんになった覚えは無い。
どうみても妹ぐらいの年齢だ。…つーかどことなく妹に似てるな。


「…どーしたの?パパ」
「OK。とりあえず落ち着こう。どうやってここに入ったのかは知らんが
 とにかくパパとママが心配してるぞ?さぁ、お兄ちゃんが家まで送ってあげるから行こう。すぐに行こう」
「パパはここにいるよ?それにここに来るように言ったのも向こうのパパだし心配はしてないと思うの」

お、落ち着け。俺。混乱するな。どんな事が起きてもドイツ兵はうろたえないッ!
パパはここにいる?ここにはこの幼女と俺しかいない。つまり俺がパパってことか?
ここに来るように言ったのは向こうのパパ?向こうって何だ?
あれ?このセリフ、似たようなのを聞いた覚えがあるな。
しかもこの子が出てきたのもあの掃除箱。…おい。まさか…。

「あ、キョン君早いですね。…あれ?その子…」

初代掃除箱の中の人が入ってくる。あああ、なんかよけいややこしくなりそうだ…。

「みくるちゃんだー!若ーい!かわいいー!」
「そんな…まさか…」

朝比奈さんがかなり驚いてる。なんだなんだ。この幼女が一体なんだ。



「その…詳しくは説明できませんが…。この子、TPDDを持っているんです…」

TPDD?あぁっと…。確か、タイムマシンみたいな物。だっけ?

「つまりこの子は未来から来た、と言う事になりますね」
「…いつからいたんだ、お前」

ドアの前に古泉と長門が立っていた。

「つーことは…。この子はマジに俺の娘なのか…?」

長門の方を見る。宝石のような黒い目がじ…っと俺を見つめて
「この子は、嘘は言ってない」
とだけ言った。

「だからー!言ってるじゃない!アタシはパパの娘なの!」

…とりあえず、俺の娘で確定のようだ。長門が言うんだから間違いないだろう。

「…えっと。それじゃあなんで過去に来たんだ?なんか理由があるんだろ?」
「それは、禁則事項でぇす♪」

人差し指を口に当て、…多分ウィンクがしたかったんだろう。両目を閉じてそう言った。
ま、未来人があんまり詳しいこと教えてくれないのはわかってるさ。
バレンタインの時に嫌ってほど痛感してる。

「…やれやれ」

ニヤニヤと俺を見る古泉。唖然とした顔で幼女を見つめる朝比奈さん。
しけったマッチを見るような目で幼女を見る長門。俺の足にまとわりついてくる幼女。
その4人を眺めながら朝比奈さんに入れてもらったお茶を啜る俺。

と、その時。大きな声と共にドアが開いた。
今よりさらにややこしい状況にするであろう声の主がずかずかと団長席に向かっていく。

「いやぁー!遅れてごめん!今日掃除でさぁ!」

その直後、俺の足元から上がった声に俺は耳を疑った。

「あっ!ママ!」
「ぶはぁっ!」

俺の口から盛大に茶が噴出す。…この娘、今なんて言った!?

「その子、誰?」


予想通りなのか全く表情を崩さない古泉となぜか顔を赤くしてる朝比奈さん、
いつもの3割増しで無表情な長門。そして口から茶色の液体を垂らしてる俺。
最後に満面の笑みを浮かべる幼女を見た後、そいつは口を開いた。

マズい。これはマズい。どうしたらいいんだ。

「マーマ♪ 若いママもかわいー!」
「へ?ママ?」

ちょっ、お前、これ……!

「……とにかく。未来人である事だけでも隠したほうがいいですね」

古泉が俺に囁く。ナイスだ。出来れば俺とハルヒの娘だって事も隠したまま墓まで持って行きたい。

「あー……っとだな。その子は俺の……そう、従兄弟なんだ! 少しの間ウチで預かることになってさ!」
「へぇ。そういえば妹ちゃんにどことなく似てるわね」

そりゃそうだろうな。同じ血を引いてるんだから。つーか俺から見ればハルヒの方が似てるんだが……。
いや、これは言わない方がいい。というか言いたくない。

「で? なんであんたの従兄弟がここにいるの?」
「いや、実はSOS団の話とか聞かせてやってたらさ。是非お前に会ってみたいって聞かなくて」

よし、いいぞ俺。ナイスアドリブだ。

「ふぅん。中々見所あるじゃない。従兄弟ちゃん」

キャッキャッとハルヒとじゃれる幼女。ふぅ、とりあえず危機は回避できたようだ。

「……ねぇキョン」
「なんだ?」
「なんでこの子、私の事ママって呼ぶの?」

……しまった。一番の問題をすっかり忘れてた。



「そ、そりゃあお前……」
「何よ」

あああ、駄目だ、何も思い浮かばん! 
訝しげな目でこっちを見るハルヒ。一点の曇りも無い目で俺を見つめる幼女。
……未来の俺もこんな風に尻に敷かれてるのかな、とか現実逃避し始めた時、

「彼女の母親が、涼宮さんにそっくりなんですよ。それはもう見間違えるぐらいに」
「そうなの? キョン」
「あ……あぁ! そうなんだ!」
「なんで古泉君がそんな事知ってるの?」
「一度お会いしたことがありまして。それはもう驚きましたよ」
「へぇー。一度会ってみたいわねぇ」

そう言うとまた幼女とじゃれ始めた。
スマン、古泉。恩に着る。そうアイコンタクトをして、古泉もウィンクを返してくる。
いつもなら気持ち悪いそのウィンクも今は輝いてるぜ。


その後は、2人でじゃれる幼女とハルヒ。何か変なことを言い出さないか気が気じゃない俺に
いつもの微笑み君の古泉と無表情の長門。何故かオロオロする朝比奈さん、という感じで
時間が過ぎていった。


「それじゃ、おっ先ー!また逢おうね、従兄弟ちゃん!」

そう言い残して、『ママ』はつむじ風のように走り去っていった。
俺達はと言うと、誰が言い出したでもなくこの状況の対策会議が開かれた。


「……でだ、なんでお前が来たのかってのは言えないんだっけ?」
「うん。禁則事項なの」
「他には? 未来の俺からなんか言伝とか無いのか?」
「えぇっとねぇ……。2日後の朝6時に帰って来なさいって言ってたよ」
「それだけか?」
「んと……。あ、過去の俺によろしく、って」

何がよろしくだ。未来の俺はよろしくしか言えないのか。
もっとこう、有益な情報をくれ。俺を巻き込むのなら。



「それと、明日遊園地に連れて行ってくれるって!」

ほほぅ。それはよかった。是非とも未来の俺と楽しんできてくれ。

「うぅん。昨日ね、パパに言ったら
『あぁ、大丈夫だ。きっと向こうの俺が連れて行ってくれる』って言ってたの」

ニコニコと笑いながらそう俺に教えてくれる幼女。

おいおい。何考えてんだ未来の俺よ。自分の娘の事を人に押し付けるなよ。
ん? いや、俺の娘でもあるのか? あーもう、よくわからん。


「きっと、その子のパパであるキョン君も高1の明日に遊園地に行ってると思います」

と、朝比奈さんが言う。蛇の道は蛇……ってやつか。ここは未来人さんの言う事を聞いたほうがよさそうだ。

「えぇっと……。つまり、遊園地に行くのは規定事項なんですよ」

逆らえないって事か。なんてこった。

「一緒に行くのは、パパだけですか?」

NHKに出てくるお兄さんのような笑顔を浮かべつつ幼女に話しかける古泉。

「うぅん。ママと一緒に!」
「んなっ……!」

ちょっと待ってくれ。俺の記憶が正しければ、ママってのは……。

「そういう事らしいですよ。がんばってくださいね、パパ」

……こいつ。分かってて言ってるんじゃないだろうな。



「ね、パパ。お願い!」

と、見事な笑顔とキラキラ輝く瞳で俺を見つめる。
……こんなところまで母親に似やがって。

「……わーったよ。連れて行きゃいいんだろ。行くよ。行きますよ」

何故か沸き起こる拍手。なんだこれ。


「…それと。もう一つ問題があるんだよな」

そう。すっかり忘れてたがこの娘が2日間こっちで生活するんなら
当然寝泊りする場所が必要なわけで。

「え? パパとママと一緒に寝るに決まってるじゃない」

まず、俺の家に泊まるのは不可能だろう。ウチにこんな幼女を連れて行く訳にはいかない。
ヘタすりゃ誘拐犯に間違われる。
ハルヒのとこは……。頼めばなんとかなるかもしれないが俺が嫌だ。
もしこの娘が俺とハルヒの子だとバレてみろ。
もう……考えるのも嫌だよ。マジで。
そもそも、俺とハルヒが一緒に寝る事自体ありえないしな。

……仕方ない。



「長門。……頼めるか?」
「いい」
「助かるよ。スマンな。毎度毎度」
「気にしていない」
「えー!? パパとママと一緒に寝たいー! 寂しいー!」
「長門がいるじゃないか。な? 全然寂しくなんかないぞ?」
「だって有希喋らないもん! つまんないよー!」

んな事言ったってなぁ。それが長門なんだからしょうがないだろ。

「我が侭言わない。パパをあんまり困らせたらいけません!」

……なんか言ってて恥ずかしいよ。古泉はいつもよりニヤニヤしてるし。この野郎。

「いーやー!パパとママがいいー!」

どうやら性格はハルヒの方を強く受け継いだらしい。こりゃもうミニハルヒだ。
俺の性格を受け継いだらそりゃもう賢くていい子になってるハズだからな。

「あなたも、泊まればいい」
「成る程。それはいい考えですね」
「あ、それいいね! 有希天才!」

あれ? なんですかこれ? 俺の意見は無しですか?

じっと真っ黒の目で長門が、微笑みながら古泉が、朝比奈さんが申し訳なさそうに、
そして幼女が南米系の派手な花のような笑顔で俺を見つめる。

「……わかったよ」

俺は溜息をつきながら、お袋に連絡するべく携帯を取り出した。

「おいしーねー。パパ! 有希料理上手いよ!」
「そうだな」

どう見てもレトルトだけどな。


今、俺達は長門家で晩御飯をご馳走になってる。定番のレトルトカレーにやけに多いキャベツの千切り。
まぁ……たまに食べるには悪くない。

晩御飯を食べ終わり、長門と娘がオセロで対決してるのを眺めながら俺は憂鬱になっていた。
今日が終わる前にまだやっておかねばならん事がある。

また勝ったぁ! 有希弱いねー! とか言う声を聞きながら俺は寝室に移動した。
携帯を取り出し、電話帳を呼び出して通話ボタンを押す。


『何の用?』

もしもしぐらい言えよ。

「いや、その……。あれだ。お前明日ヒマか?」
『まぁ、ヒマだけど。何よ。さっさと用件を言いなさい』

逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。がんばれ、俺。
ってなんかこれじゃ告白するみたいじゃないか。違う、断じて違うぞ。
これは、あの娘に言われたから仕方なく……。だー、もういい。当たって砕けろだ。

「お、俺と遊園地行かないか?」

思わず声が上ずる。なんでこんなに緊張するんだろうね。

『………へ?』

と、ハルヒの間の抜けた声。

「……」
『……』

そして微妙な沈黙。なんか言ってくれ。耐えられん。



『遊園地って……。私と、アンタが?』
「あ、いや、違う! 俺じゃない! 違うぞ!」
『な、何がよ。じゃあ誰よ』
「いや、俺だ。誘ってるのは俺だけど、違うぞ。勘違いするなよ!」
『ちょっと待って。わけが分からないわ。何よ。どういう事?』

落ち着け。俺。クールだ。クールになれ。

「ほら、今日さ。俺の従兄弟がいたろ?あの子がどうしても俺とお前と3人で遊園地に行きたい って」
『あぁ、なんだ……。そういう事ね』

ハルヒの声のトーンが微妙に落ちたように聞こえたのは……
多分俺の耳がおかしくなったんだろう。うん。

『いいわよ、別に。暇だったし。付き合ったげる』
「そ、そうか。助かったよ」
『別にいいって言ったでしょ。それじゃ、明日9時に駅前ね。用件はそれだけ?』
「あぁ。それだけだ」
『ん。それじゃ切るわよ』
「あ、ハルヒ」
『何?』
「ありがとな」
『っ……!いいって言ったでしょ! じゃあね!』

ガチャン! と派手な音を立てて電話が切れる。

「ふー……」

大きな溜息を一つ。いやぁ疲れた。明日も早いんだ。さっさと寝よう。


リビングに戻るとオセロ板の前で横になって寝てる幼女と対面でじっと正座してる宇宙人がいた。

「……何やってんだ長門」
「次は、この娘の番」

もう一つ大きな溜息をついて、娘を寝室に運ぶ。

「長門、もういいぞ。スマンな付き合せて」
「いい」

そう言って寝室に消えていった。

「……スマンな」

もう一度小さく言ってからあることに気づいた。



直で長門ん家来たから俺、制服のまんまだ。
今から家まで帰って取ってくるのも、おっくうだしな。
さすがにこのまま遊園地に行くわけにはいかん。そりゃ長門の役割だ。

……と、色々言い訳を考えてみたが。正直なところ、どんな服を着て行けばいいかわからんのだ。
あんまり気合入れすぎるのもアレだし、かと言っていつも通りってのもなんだかなぁ。

なんとなく、経験豊富そうなあいつに聞いてみるか。


もう一度携帯を取り出し、耳に当てる。


『もしもし?』
「すまんな。こんな時間に。ちょっと相談したいことがあって」
『なるほど。明日のデートの事ですか?』

お見通しか。この野郎。

「あぁ……。ま、そんなとこだ。それと、さ。服貸してくれないか?」
『服……ですか?』
「直に長門の家行ったからさ。制服しか無いんだ」
『わかりました。とっておきの服を持っていきますよ』

電話の向こうでウィンクする古泉が浮かぶ。

「んじゃ、光陽園駅前公園来れるか?」
『わかりました。すぐに向かいます』



ベンチに座って待つ事数分、チャリンコに乗った古泉が現れた。
今日は黒タクシーじゃないんだな。

「あれは緊急事態の時だけですよ」

はい、どうぞ。と言いながら紙袋を俺に渡す。

「実は、僕は今とても喜んでいるんです」
「なんでだ?」
「遂にあなたにデート前に頼られる友人になれた、とね」

と言って微笑む。……なんか知らんが、ちょっと恥ずかしいのは俺だけか?
このまま認めるのもアレだから適当に反論しておこう。

「ハルヒ絡みだとお前ぐらいしかいないしな。朝比奈さんはそういうの経験無いみたいだし長門は論外だ。
 それに服借りなきゃいけないから同性のお前にしか頼めないし……」

微笑み君のまま肩をすくめてチャリンコの方へ歩いていく。

「それでは失礼します。明日、がんばってくださいね」

何をがんばれってんだ。


……相談相手になって喜んでるみたいだし、ついでにもう一つ聞いとくか。

「なぁ、古泉。俺、明日どうしたらいいと思う?」

振り返りながら0円スマイルを振りまいて、

「いつも通りのあなたでいいと思いますよ。きっと涼宮さんもそれを望んでます。
 応援してますよ。機関の一人として、副団長として、そして僕個人として」

そう言ってチャリンコを漕ぎながら闇の中に消えていった。

結局、具体的な答えは何も教えてもらってないな。ま、いつもの事だが。



あーあ。今日はいろんな事があって疲れた。風呂は……朝入ればいいか。
こういう時はさっさと寝るに限るな。
そう思いながら寝室のドアを開ける。

娘を運んだ時は1組しかなかったのに、そこには3組の布団が敷いてあった。そしてその内2組の中で眠る幼女と長門。
しかもなぜか長門がセンターの位置だ。

……こいつ、分かっててやってるんじゃないだろうな。時々、本気でそう思う。

俺は溜息をつきながらコタツの中に潜り込んだ。

「おっはよーう! パパ起きてー!」
「ぅごふ!」

娘のフライングボディプレスで起こされる。
……妹から逃れても、俺はこんな起こされ方をし続けるんだろうか。


時計……も無いのか、この家は。まぁ、必要無いんだろうな。
携帯を見る。アナログ表示にしてある液晶に写る時計。長針と短針が縦一直線だ。

「まだ6時じゃないか」
「だって楽しみだもん! 早く行こうよ!」

早く行ったってしょうがないじゃないか。まったく。
気持ちは分からんでもないが。

「早く! 早く!」
「少しは落ち着け。遊園地は逃げないさ」

そういいながら洗面所へ。シャワーでも浴びるか。

「スンスンスーン。イェスンスンスーン♪」

服を脱いで鼻歌を歌いながら風呂場へ。

「どぅわっ!?」


そこにはなぜか、透き通るような白い肌の少女がいた。……ってなんで長門がいるんだ!

「……」

顔だけをこっちに振り向こうと……マズイ! 俺は今素っ裸だ! これはマズイ!

「ス、スマンっ!」

宝石のような真っ黒な目が俺の裸体を捉える前にドアを閉める。セーフ。
大丈夫。背中しか見てない。大丈夫だ。……何が大丈夫なのかはわからんが。



慌てて服を着てリビングへ。もしゃもしゃと朝ごはんを頬張る娘。

「有希が作ってくれたの。おいしーよ! パパの分もあるから!」

こたつ机の上に並べられた見事なベーコンエッグ。レトルト以外も作れるのか。
というか長門は何時に起きたんだ。

娘と並んで朝飯を食ってると風呂から上がった長門もこたつに座る。
……さっきの事について特にコメントは無いようだ。長門で助かった。
相手がハルヒなら今頃俺は、六文銭を握り締めて渡っちゃいけない川に向かってることだろう。

長門の事だから、もしかしたら素っ裸でこっちに来るんじゃないかと
期待……あいや、心配してたんだが杞憂だったようだ。つーかやっぱり制服なのな。

予想以上に美味い朝飯を平らげ、今度こそ風呂に入るために洗面所へ。

心持ち、いつもより丁寧に身体を洗う。
……いや、別に深い意味は無いぞ?

風呂からあがり、古泉から貸してもらった服を着る。
ピンクのワイシャツにブラウンのジャケットスーツ、エンジ色のネクタイ。
……なんかカッチリしすぎじゃないか?遊園地に似つかわしい格好じゃない気もするが。
ま、折角貸りたんだし着るか。どーせコレの他は制服しか無いんだ。


「わー! パパかっこいいー!」

キラキラした目で言いながら俺の手を取る。わかったから、さりげなく玄関に引っ張るのはやめなさい。

これ以上ゆっくりして娘の機嫌を損ねるのもなんだし、そろそろ行くか。まだ7時前だけど。



「スマンな長門。あと一日世話になるけど……」
「いい。気にしていない」
「そっか。ありがとな」

なんかお土産でも買ってきてやろう。長門には世話になりっぱなしだな。

「それじゃ行ってくるよ。多分夕方辺りに帰ってくると思う」
「……いってらっしゃい」

と、長門と玄関で夫婦のような会話を交わして家を出る。
この分じゃ7時過ぎには着きそうだな。……約束より2時間も早いじゃないか。

「楽しみだねー!」
「そうだな」

こいつがいれば暇はしなさそうだ。

そう思いながら、休日の朝っぱらからウロついてる暇人に混ざりながら駅前へ向かう。

「……ま、来てるわけ無いか」

壁にもたれる。眠い。もう少し寝てたかったな。


「ちょっと」

横から声を掛けられる。おいおい、こんな時間から逆ナンか?
全く、モテる男は辛いぜ。

そう思いながら隣を見る。
白のノースリーブのワンピースに水色のカーディガンを羽織ってる。
いいとこのお嬢さんみたいな格好だな。
残念だが、ハルヒを待たなきゃいかんし断るか。

「ちょっと人待ってるんで。すいません」
「私以外の誰を待ってんのよ」

何言ってんだ? そう思って顔を見る。



「ハ、ルヒ……? だよな?」
「どっからどう見ても私でしょ。何よ、何か文句でもあんの?」

どこをどう見てもお前じゃねぇよ。その格好じゃまるで朝比奈さんだ。
……ま、抜群に似合ってるんだが。

「アンタだって人のこと言えないでしょ。その格好」

だろうな。こんなカッチリした服なんか普段着ねぇよ。息苦しいったらありゃしない。

「……にしても。こんな早くに集合しちまうとはな。まだ開いてないだろ?」
「そうね。喫茶店にでも行って時間潰しましょ」

そう言ってずんずんと歩き出す。慌てて着いていく俺と娘。



大量に注文するハルヒ。朝からよくそんなに食えるな。

「いっぱい楽しまなきゃいけないから、エネルギーを溜めなきゃ。ね、従兄弟ちゃん」
「うん!」

もしゃもしゃとホットケーキを頬張る娘。こいつもよく食うな。
さっき朝飯食ってたのに。やっぱり遺伝か。

たらふく食った後、さらにデザートまで注文する。

「このパフェとかおいしそうね。従妹ちゃんも食べる?」
「食べる食べるー!」

微笑ましい二人を眺めながらコーヒーを啜る。こういうのも悪く無いな。



「ほら、頬っぺたにクリーム付いてるぞ」
「んー……」

と、拭いてやる俺。ほんとの親子みたいだな。いや、ほんとの親子らしいが。
それを微笑みながら見てるハルヒ。


「……お前も付いてる」
「えっ? あっ!」

慌てて顔を擦るハルヒ。子供かお前は。


「んっー! 一杯食べたしそろそろ行こっか」
「行こ行こー!」

一伸びしてから席を立つハルヒとついていく娘。
やっぱり払いは俺か。

「当たり前じゃない。私のほうが早かったし、そもそも誘ったのはアンタなんだからね」

はいはい。わかりましたよ。
……まさか遊園地も俺の奢りじゃないだろうな。

不安に駆られながら財布の中の野口さんの人数を確認した。

「ね、次はアレ行こっ!」
「OK! ほら、キョン何してんの! 行くわよ!」

……勘弁してくれ。なんなんだこのスタミナは。

右手を娘に、左手をハルヒに引かれる。わかったから、もうちょっとゆっくり行こうぜ?な?

「何言ってんのよ! せっかく乗り放題なんだから、たっくさん乗らなきゃ!」
「そうそう! もったいないよー!」

そう言いながら何度目かの絶叫マシンに乗せられる。

お前ら、もうちょっとこう、女の子らしく
メリーゴーランドとか観覧車とかそういうのは無いのか。

「つまんないじゃん。あんなのグルグル回るだけだし、観覧車なんか高いだけじゃない。
 高いところが好きなのはバカと煙だけよ」

ムードもクソも無いな。元々こいつにはそんなの期待してないが。

グングン上昇していく乗り物。……正直なところ、あんまり得意じゃないんだこういうの。
高い、高すぎる。この落ちるときのなんともいえない感覚が好きになれない。
内臓が引っくり返る感じ。きっと身体に悪いぞ。
……このままバックして乗り場に戻ってくんねぇかな。



そんな俺の願いもむなしく、ついに頂上に。後はまっさかさまに落ちるだけだ。

「っ……!」

目を閉じて歯を食いしばる。ダメだ。なんか掴める物……。

手近にあった手を掴む。柔らかい。

「ちょっ……!」

ハルヒが何かわめいてるが、知らん。俺にはそんな余裕は無いんだ。
恨むなら無理矢理乗せた自分を恨め。




「はい、お疲れ様でしたー!」

乗務員のお姉さんの声が聞こえる。……もう目を開けても大丈夫だな。

「あ……あれ?」

乗ってるのは俺とハルヒだけ。他の乗客はさっさと降りたみたいだ。
娘も通路でニコニコしながらこっちを眺めてる。

「……離しなさいよ」
「あっ、わ、悪い!」

なんだか微妙な表情で睨まれる。まだ手、握ったままだったのか。全然気づかなかった。

手を離すとつかつかと、こっちを見向きもせずに歩いていく。
……マズい。怒らせたか?



「お、おいハルヒ?」
「……」
「いや、その……すまなかった。俺も必死でさ。」
「……」
「なぁ、機嫌直してくれよ」

いきなりハルヒが立ち止まる。つんのめる俺。
くるっと振り返ったその顔は、満面の笑みだった。

「それじゃ、お昼ご飯奢ってね!」

……一杯くわされたって訳か。この野郎。

イタズラが成功した子供みたいに娘とハシャいでやがる。

クソ、どんどん懐が寒くなって来たぞ。未来に請求書とか遅れないもんかね。


一人でどんどん進むハルヒに俺と娘がついていく。
……力関係丸分かりだな。将来はこうじゃ無くなる事を切に願う。マジで。

「ここにしましょ」

そう言って適当な売店に入る。

「従妹ちゃん何食べる?」
「あたしケーキがいいー!」

もうちょっと遠慮して頂けませんか。お嬢様方。
ただでさえ、こういうとこって無駄に高いのに。



結局、2人の少女は朝にあれだけ食べたとは思えないほどの量を胃に詰め込んだ。
俺?俺はお冷だけさ。

俺の財布に大打撃を与えた昼食も過ぎ、また絶叫系へ向かう2人。

「言いだしっぺはアンタでしょ! ついて来なさいよ!」
「パパー! 早くー!」

キラキラ輝く4つの瞳が俺を見る。……逆らえそうに無い。もうヤケだ。

「こうなったら、ここの絶叫系全部制覇してやるよ。どーんと来い!」

ワァー! と2人からあがる嬌声。
3人で競歩みたいな速度で乗り場へ向かう。


数時間後、俺は見るも無残な姿になってるとも知らずに。

沈みかかった太陽に赤く照らされながら、俺達は遊園地を後にした。

「しっかりしなさいよ。だらしないわねぇ」
「パパ、かっこ悪ーい」

結局、自分の言った事ぐらい責任持ちなさい というハルヒのお陰で
マジに全部制覇した。言わなきゃよかった。
一時のテンションに身を任せるとダメだね。やっぱ。

もうフラフラだ。ハルヒの肩を借りてやっと立つ。
……まだ地面が揺れてる気がする。

「ま、でも楽しかったわ。遊園地なんて久しぶりだったし。従妹ちゃんも楽しかった?」
「楽しかったー!」

そりゃよかった。俺の全体力と野口さんを数人犠牲にした甲斐があったよ。

「で、これからどうすんの?なんか決めてたりする?」

何も決めてない。未来の俺からは遊園地に行け しか聞いてないしな。
長門に夕方には帰るって言ってるし、そもそも俺がもう限界だ。

「悪い、ちょっと体力的に限界だ」
「……ふーん。それじゃ、私も帰ろっかな」
「えー!? もう帰っちゃうのー?」

抗議の声を上げる娘。

「ごめんね。でも悪いのはこの情けないお兄ちゃんよ」
「おい」
「だってホントの事じゃない」

こんなかっこじゃ反論も出来ないな。我ながら情けない。

「アンタ大丈夫なの? 一人で歩ける?」

……こりゃぁ無理だな。膝が笑いっぱなしだ。まさかここまでとは。
遊園地を、というよりこいつらを舐めていた。



「ったく。仕方ないわね。家まで送ってってあげるわ」
「スマンな」
「いいわよ別に。そのかわり今度の不思議探しで奢りね!」

至近距離で向日葵のような笑顔が輝く。思わず顔を背ける。近ぇよ。
……こいつ、もしかしてとんでもない浪費妻になるんじゃないか?



「あ、そっちじゃない。こっちの道だ」
「へ? アンタん家こっちでしょ?」
「俺ん家は確かにそっちだが、今日は長門んとこに泊まるんだ」
「……なんで?」

こいつは俺達の娘で未来から来たから泊まる所が無いんだ。
……言える訳ない。つーか言いたくない。
従妹って設定だから普通は俺の家に泊めるよな。

「アンタも有希の家泊まんの?」
「ん、あ、まぁ……一応……」
「ふーん……」

10秒程考えてパッと顔を上げる。

「……私も泊まるわ!」
「はぁ?」
「ね、いいわよね? 従妹ちゃん!」
「いいよー! やったー!」

了解を取る相手が違うだろ。長門に……駄目だ。あいつも断りそうに無い。


「それじゃ、早速有希に連絡しないとね!」

そう言いながら携帯を取り出す。

「あ、有希? 今日さ……」

結局、この娘の希望通りになったわけか。
……まさか、この娘にもハルヒと同じような能力があるんじゃ無いだろうな。
『遊園地に行く』『パパとママと一緒に寝る』 望みどおりだ。
……まさか、な。もしそうなら未来の俺が不憫すぎる。
そしてそれは将来の俺な訳で。……無いよな? たまたまだよな?



楽しそうに喋る2人を横目で見ながら悩む俺。
せめて、平穏な生活でありますように。そう祈らずにはいられない。






「有希ー! 開けてちょーだい!」

叫ぶと言う至極原始的な方法で長門を呼ぶハルヒ。
なんでチャイムを使わないんだ。

音も無く開くドア。そこから覗く真っ黒な目。

「……入って」

「「おっじゃましまーす!」」

遠慮と言うものを欠片程も持ってない親子がずかずかと入っていく。


「スマンな。成り行きでこうなって……」
「気にしていない」
「毎度毎度、迷惑かけて悪いな」
「いい」
「ありがとな」

「ほら、キョン! 何ぼーっとつっ立ってんの! 有希も!」
「はいはい。今行きますよ」

長門の家に帰ってきたら疲れがどっと出てきた。……眠い。



そして開催されるオセロ大会。俺の疲労なんかお構いなしか。



俺vs娘。順当に俺が勝った。さすがにこんな幼女には負けないさ。

ハルヒvs長門。意外なことにハルヒの圧勝。手を抜いてるんだろうか。
本気の長門に勝てるヤツなんか多分この世にいないだろう。

そして決勝。俺vsハルヒ。

「せっかく決勝戦なんだし、そうね……。私が勝ったら明日の学食奢って頂戴!」
「なんだそりゃ。じゃあ俺が勝ったらどうするんだよ」
「私が負けるわけ無いじゃない。 万が一勝てたらキョンの好きにしたらいいわ」

俺が負けること前提かよ。これ以上懐を寒くするわけにはいかない。
絶対に勝ってやる。


最後の1マスに俺が白を置く。引っくり返る黒。
……パッと見じゃ互角だ。
緊張しながら一枚ずつ数えていく。


「……嘘」
「ぅっしゃあ! どーだ見たか!」
「な、何かの間違いよ!」

そう言いながら数えなおすハルヒ。ふっふっふ。無駄だ。俺に数え間違いなど無い。

おぉー! と言いながらパチパチ拍手する娘。

「……屈辱だわ」
「で? どうするんだ? 俺が勝ったぞ? ん?」

笑いが込み上げてくる。いやぁ、こんなに気持ちいいとはな。

「……わかったわよ。じゃあ学食奢ったげる。感謝しなさいよ!」

ペリカンみたいな口をしながら悔しげに言う。



「申し出はうれしいんだが……。俺、学食ってあんまり好きじゃないんだ。
 あの騒がしい感じがさ。やっぱ昼飯は教室でゆっくり食べるに限るね」
「わがままね。じゃあどうすればいいのよ」

正直、俺も勝てるとは思わなかったからな。何も考えてねぇや。

「……じゃあ、弁当ならいいのね」
「へ?」
「弁当作ってきてあげるって言ってんの」
「……お前がか?」
「何よ。文句でもあんの?」

いや、無いが……。作るのか? お前が?

「だからそう言ってるでしょ! はい、この話はもう終わり! 明後日は弁当持ってきちゃダメよ!」

一方的にまくし立てられて話が終了。ふーん……。ハルヒの手作り弁当、ね。


その後も、第2回オセロ大会が開催されたり
部屋の隅に丸まってたツイスターゲーム引っ張り出して遊びまくった。

……にしても、コイツ達のスタミナは底なしか。
そもそも疲れという概念があるのかすら怪しい宇宙人に
朝からハシャギまくってるクセにまだまだ元気なハルヒと娘。
やばい、そろそろ限界だ。俺は普通の一般人なんだからな。
……瞼が重すぎる。





「……ん」

のっそりと身体を起こす。……寝ちまってたのか。
見回すと、大口を開けて寝るハルヒとその隣で寄りかかるように寝る娘。
長門はいない。寝室かな。


俺の上に掛けられてた水色のカーディガンを持ち上げる。それをハルヒに掛けてやる。
中途半端な時間に起きちまったな。まだ外は暗いじゃないか。

そのまま数分ボーっとする。……ん?そういや今日の朝に娘を送り返さなきゃいけないんだっけ。
……何時だっけか……。寝ぼけてる脳を覚醒させて記憶を掘り起こす。



『他には? 未来の俺からなんか言伝とか無いのか?』
『えぇっとねぇ……。2日後の朝6時に帰って来なさいって言ってたよ』
『それだけか?』
『んと……。あ、過去の俺によろしく、って』



やべぇ! 朝の6時!?

携帯を取り出す。5時半。走れば間に合う!


幸せそうな顔で眠る娘。……起こすには忍びないな。担いでいくか。
ハルヒを起こさないようにそっと娘を抱き上げる。


まだ節々が痛い体を引きずって死にそうになりながら坂を駆け上がる。





「むにゃ……。あれ? パパ……?」
「お、起きたか」
「どこ……?」
「部室だよ。お前を未来の俺に返さなきゃな」

時計を見る。5時57分。ギリギリだ。


ストン、と俺の背中から降りて掃除箱に入る娘。
……もしや、これがタイムマシンになってるんじゃないだろうな。
今度入ってみるか。誰にも見つからないように。


「じゃあね、パパ。2日間だったけど、すっごい楽しかった!」
「……俺もだよ」
「どうしたの? なんか悲しそう」

子供って時々鋭くなるのな。

「ん……。寂しいってやつかな」
「大丈夫だよ」

その娘は、母親に良く似た輝くような笑みでこう言った。

「だってまた逢えるじゃん! あたしはパパとママの娘だよ?」
「……そうだな」

時計を見る。6時。もう時間だ。



「今度あたしと逢うまで、ママと仲良くしてて!……それじゃ、『またね!』」

パタンと掃除箱の蓋が閉まる。……もう、開けても空っぽなんだろうな。

ママと仲良く、か。……そうだな。もう少し近づいてみるか。あの娘のためにも。

そんな事を思いながらドアノブに手をかける。教室で一眠りでもするか。


ガタッ!

「ぅきゃっ!」


……ん? なんだなんだ?


ガタガタッ!


揺れる掃除箱。また来たのか?


つかつかと掃除箱に近づき、ドアを開ける。なんか知らんが、また逢える。
そう思うと自然と笑顔になった。

「どうしたんだ? 忘れ物でも――――」

笑顔が凍りついた。


「……パパ」
「あっ! よかったぁ。待っててくれたんですね。パパ、私なんで過去に送られたんですか?」


そこには、無表情な顔に付いてる宝石のような黒い目で俺を見つめるショートヘアの幼女と
潤んだ目俺を見上げるで栗色のウェーブがかかった長い髪の幼女がいた。


「はは……嘘だろ……?」



-end-

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Last Update 2009/11/10
haruhi-ss 俺ベスト(おれべす)
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