|
どうして
|
|
最近ハルヒがおかしい。
具体的には俺を凝視するのだ。別に睨みつけられているわけではないのだがジロジロと見られるのは気分のいいもんじゃない。
別段俺に変わったところはない。元々おかしなパーツでもあればそこが変ともいえるが変更点はないはずだ。
つまり俺は変わらず俺であるというなんとも自己同一性に優れた回答を用意できるわけだ。
にもかかわらずハルヒはいまさらのように俺を観察しているのだ。
逆にいつもよりおとなしいおかげで非日常的なトンデモに巻き込まれることは少なくなったが心労は増しているという有様だ。
考えても見てくれ、大概の男なら振り向くレベルの美少女がジロジロと見てくるんだ。
授業中なんかいつか背中に穴が開くか発火するんじゃないかと思える。
さらにそんな美少女がジロジロ見ている奴は何者なんだと周りの老若男女までも俺を見るのだ。
しかも往々にしてなんだこの平凡な奴はという自分勝手な失望の色を浮かべる。
俺は注目なんかされるのはゴメンなわけで針のむしろに立たされているようなものだ。
当然ハルヒに何かおかしいのかなんて聞いてみたわけだが「別に」の一言であっさり流された。
そのくせ俺を観察するのをやめようとしない。
なんだなんだいつのまにか俺は変質しているとでもいうのか。
いつのまにか俺はおかしくなってて他のみんなは気を使って何も言わない。
だがハルヒだけは遠慮なしに俺を見る…なんてな。
今朝も鏡を見ながらそんなことを思う。
だがそんなことはありえない。もしそうだった場合ハルヒは網をもって俺を追いかけてくるだろうから。
だがそろそろ勘弁して欲しい。ここいらではっきり問い詰めなければ。
「何よ」
「いい加減にしてくれ、なんで俺をジロジロと見るんだ」
「なんでもないわよ」
「なんでもないわけあるか。なんでもないのに人をジロジロ見るわけないだろ」
ハルヒは目を逸らしながらアヒル口で続ける。
「…だってしょうがないじゃない」
「なにがだ」
「あたしだって何でだかわからないんだから」
「お前の言っていることのほうがわからん」
「バカキョン」
「いまのは明らかにお前の説明力不足のせいだろうが」
「察しなさいよそれくらい」
本人が説明できないことをエスパーでもない俺がどうやって理解しろと言うのか。
「ニブキョン」
「いまさら新たな罵り言葉を編み出されても対応に困るんだが。それは鈍いってことか?」
「…こういうこと」
ハルヒは俺のネクタイを掴んで引っ張り、自身は背伸びをして、粘膜と粘膜の接触を試みた。
…いかん。遠まわしに表現しようとして墓穴を掘った。
簡単に言えばハルヒがキスをしてきたのだ。
「ん……ぷはっ…はぁ…、お前…なんで…?」
「あたしだってわかんないって言ったでしょ。でもあんたが他の女の子にデレデレしてるとムカつくしあたしに優しくないのもムカつくし、でもあんたと一緒にいると楽しくて、見てくれると嬉しくて、それでいつも頭に浮かんで」
ハルヒはまくし立てるように一気に言葉を吐き出す。せき止めていた分勢いは苛烈だった。
「挙句の果てに夢にまで出てくるし、しかも世界に二人きりで最後にはキス。こんな三流恋愛小説最近流行らないわよ、もう!」
怒っているように見えるのは照れ隠し、なのだろう。なにせ顔が赤い。俺にうつってしまうくらい赤い。
「なんで、俺なんかに…」
「なんであんたなのかなんてあたしが聞きたいわよっ!」
頭を俺の胸に乗せるように寄りかかってくるハルヒ。
顔が見えないのは顔を見せなくていいということで幸か不幸かそのあたりの判断は難しいところだ。
「答えを言わせてもらうと」
ハルヒがびくっと体を震わせる。そういうのは反則だと思う。
「気持ちは嬉しいし、俺も応えたいと思う。けど」
ハルヒが俺の服をぎゅっと掴む。離れたくないと駄々をこねる子どものように。
「せめて場所は選んでくれ。教室で衆人環視の元っていうのはちょっと俺の趣味じゃないんだが」
背中に氷の棒でも突っ込まれたみたいに飛び上がって周りを見渡すハルヒ。こいつ本当に気づいてなかったのか。
常に周囲から浮いてきたハルヒだがこういう生暖かい視線は慣れていないらしく俺の手を掴むなり「い、行くわよっ!」と教室の外へと歩き出した。バカ、余計目立つっての。だいたい二人きりでどこで何をしようってんだか。
俺も思う。なんでこいつなのだろうか。美人だから?スタイルがいいから?…それは決定的な理由にならないだろう。
まあいいさ。理由もないのにこいつしかいないと思えるならそれはただ単に『好き』ということなのだろうから。 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|